フレンド



 彼女は、走った。小さな歩幅ながらも懸命に。

 (人が・・・人がゴミのよう・・・)

 ジュノ下層。ここには競売所があり、ありとあらゆる物が取引されている。下層以外にも、港、上層、庭と全てのエリアに競売所が設置されているが、ここ下層は何故か大勢の人が集まる。(上層、港は後から設置された為、老舗の下層が今でもメッカという話もあるが・・・)

 (早くここを抜けよう。人ごみは重苦しくてキライだ)

 下層に人が集まるということは、それだけ商売のチャンスがある。冒険で手に入れたものや、自分で作ったものを‘バザー’と称し他の冒険者に売ったりしている。それを求めて、また人が集まる。バザーには税金が掛かっており、下層が一番高い。にもかかわらず、バザーの数が多い。それだけ、人が集まる証拠のようなものを、無言で物語っている。

 (庭の‘お気に入り’のポジションに早く行こう・・・)

 競売所から居住区のガイドストーンを左に曲がると上にと続く階段があり、上層へ抜けられる。そのまま真っ直ぐ、続けて上への階段を進むと庭‘ル・ルデの庭’へと出る。

 ル・ルデの庭を例えるなら[白亜の宮殿]もしくは[空中庭園]という言葉が、ピッタリであろう。白で統一された、宮殿に床。ジュノで一番高い位置にあるから、当然遠くまで見渡せる。そんな別世界のようなところに、ここジュノの大公が住んでいる。立派な作りなのも、もっともな意見であると言えよう。

 彼女は庭に出ると、右に曲がり道なりに進み、宮殿の正面へ出るように向かった。正面へ出ると、角の階段を下り‘お気に入り’の場所へと向かった。

 「風が気持ちいいわぁぁぁ〜」

 階段を下りながら、彼女は背伸びをした。人ごみの雑踏がうるさいことで有名なジュノでも、ここはまだ比較的静かなところだ。彼女は、この先の噴水でゆっくり、まったり過ごすのが好きなのだ。

 「夏の暑い日になると、風が噴水の水を運んでまたさらに気持ちいいのよね〜」

 全身で風を受け止め、ゆっくりと噴水へ向かった。今からの時間、少しでも長くいたいからというのもあっただろうが、宮殿の正面まで走ってきたので、呼吸を整える為に少し足を休ませたかったというのもあった。

 (ん?あたしの‘お気に入り’のポジションにいるのは・・・?)

 普通なら階段の上のほうで分かったであろうが、受けていた風の気持ちよさ、ゆっくり休みたいと思う心が、それを気が付かせなかった。

 (って、よく見ると〜〜〜)

 その姿は彼女と同じ、タルタルだった。そしてその顔は、彼女自身よく知っている顔だった。

 (あたしの場所で、何やってんだろあの娘?)

 宮殿があり本来ならば閉鎖的な空間であってもおかしくないのだが、ここル・ルデの庭はオープンに一般の人々にも開放されている。だから当然、‘あたしの場所’と言っている彼女は少々自己中心的な発言である。

 彼女は今、自分のお気に入りの場所が取られてしまった為、どーにかして何とか取り戻そうと何か考えていた。しかし、こんな時と言えば、あの方法しかない。いろいろ手段はあるだろうが、あれこれ考えているうちにあの娘がどこかへ行ってしまっては、考えている今の過程そのものが無駄になってしまう。そこで、結局は古典的手段に出ることにした。場所を取られたことで、少々イライラしていたがそれを押さえ込み、あの娘に気が付かれない様、彼女は噴水の横から回り込んで、そっと背中から近付いた。

 (インビジ、スニークの魔法が欲しいところね)

 姿と音を消しておけば完璧だろうが、魔法の詠唱でバレてしまう。だから彼女は、息を呑み気配を殺して、そっとあの娘に近付いた。ギリギリまで側に寄ると、彼女は‘スッ’と手を伸ばした。

 「コォォォラッ あたしのお気に入りの場所で、何やってるの?」

 「へっ!? キャァァァァァァ〜〜〜

 その大きな悲鳴は、もしかすると最下層の港まで届いたかもしれない。噴水と同じエリアにいた市民、冒険者は一斉に悲鳴の方向に振り返り、階段の上のエリアにいた人々は塀から覗き込むように噴水のあたりに目線を移した。今、この瞬間、彼女たちはジュノで一番注目されたかもしれない・・・。

 「あんたねぇ・・・ 無い胸さわられたからって、大きな声を出さないでくれる?やったこっちが恥ずかしいじゃない」

 「な、な、何いきなりするんですか〜 カノンさんっ」

 彼女―カノンは、悲鳴と同時に両手を胸から離し、そのまま腕を組み悲鳴を上げたタルタルと同じ仲間だと思われないように顔を背けていた。胸をさわられたタルタルは、両手で胸を押さえ、恥ずかしかったのかそれとも悲鳴を上げてしまったことなのか、カノンに対して怒っているのか、とにかく顔を真っ赤にしてそっぽを向いているカノンに迫った。

 「あはは 悪かったよアリア。イタズラが過ぎた。ごめん」

 その言葉に、頬を膨らませていたアリアが笑顔に変わった。そしてカノンの両手を一度握るとそのまま抱きついた。

 「久しぶりです。カノンさんっっっ」

 「うわっ いきなり抱きつくなよ」

 意外な行動に出たアリアに少し驚き、抱きつかれた拍子にちょっとバランスを崩してしまった。当然、倒れはしなかったが、一 二歩後退してしまった。

 「よーし こっちもお返しだ」

 体をアリアから引き離すと、今度はカノンがアリアに抱きついた。

 「い 痛いですカノンさん・・・」

 カノン自身はそんなに力を入れてはいない。が、しかしアリアは痛がった。先程のように悲鳴を上げるまでは至ってないようだが(もしかして、痛くて上げられないのかもしれない・・・)抱きつく前に比べて、口数が減ったような気がする。しかも呼吸も荒くなったような気がする・・・。

 「ん? あぁ ゴメンゴメン」

 「もぅ・・・ 苦しくて死んじゃうかと思ったじゃないですか」

 十分な呼吸を取り戻すために、アリアは二〜三回咳をした。

 (背骨がイくかと思った・・・)

 「もしかしてモンクに転向中ですか?カノンさん」

 あのケタ外れな豪快なパワーは、きっとそうに違いないとアリアは思った。

 「何言ってるの?あたしは悠々自適な吟遊詩人だよ。今も昔もね」

 カノンは笑って答えた。

 (絶対違う!今は詩人かもしれないけど、昔は戦士かモンクか何か戦う人だったのに違いない)

 初めて会ったときカノンは吟遊詩人だったことをアリアは思い出した。確かに歌の事もよく知っていた。冒険の仕方、後衛の在り方について教えてもらったときも、経験が豊富でとっても参考になったのを思い出した。

 だが、背中の痛みからやっと開放されたアリアは、その思いにますます確信が持てた。

 「ところでアリア、最近どう?」

 カノンはアリアとは、本当に長く会っていない。最後に会ったのは、アルテパ砂漠に行くって時だったように思える。それから数ヶ月、どの程度強くなったのかカノンとしては友人として気になるのも当然であった。

 「うん。もうすぐホーリー使えるよ」

 嬉しそうにガッツポーズを決めて、彼女は答えた。

 (相当強くなったわね・・・)

 初めて会った時、ジュノの右も左も分からなかったアリアに比べると、とても大きな成長だった。

 「そうか。そりゃ良かった」

 カノンも両手を組み、首を上下に振って喜んだ。

 が、アリアは首を下げ、目線を落としなぜか嬉しそうではなかった。

 「うん・・・良いんだけどね・・・」

 ポツリと小さく溜息をついた刹那、間髪入れずにカノンが突っ込みを入れた。

 「こらっ!溜息をすると幸せが一つ逃げちゃうぞ。ゲンを担ぐなら滅多やたらにするんじゃないよ」

 「うん・・・」

 その会話の成り行きで、縦に首を振ったような、感じだった。カノンは初め、何故急に元気が無くなったのか分からなかった。だが、過去にこのようなことがあったことを思い出した。それは珍しくアリアから、とある相談を持ちかけられた時だったような気がした。

 (もしかして・・・まだ悩んでるのかしら・・・?)

 「ねぇ、アリア・・・」

 カノンはアリアの肩に手を置いて、さっきアリアが座っていた(カノンに胸を触られた)ベンチに座らせた。

 「あたしは吟遊詩人を結構長くやってると思う。で、諸国を回っていろいろな物語や歌を聞いて来たつもりだけど・・・」

 ここで大きく息を吸い込んで吐き出すようにアリアに言った。

 「タルタルとヒュームが結ばれる話なんて、聞いたことないよ。ヒュームはエルヴァーンかミスラってパターンが多い。タルタルは残念ながらねぇ・・・だからそのヒュームのことは諦めなって」

 肩を‘ポンポン’と叩いて慰めた。だが思ったとおりというか、まったく効果が無かった。というより、前例が無いということでさらに気を落として暗くなった・・・。

 (なんか失敗?)

 カノンも流石に焦った。これからどーしたらいいか、全然わからない。沈黙の空気が、二人をしばらくのあいだ包んだ。

 「結ばれるとか、そんなんじゃなくて・・・。ただあたしは、あの時のお礼を言いたくて・・・ただそれだけなのよ・・・」

 アリアの頬が赤く染まっていることに、カノンは当然ながら気が付いた。

 (これはこれは・・・)

 「アリア・・・。あなたが彼のことをどう思ってるか分からないけど、これだけは言わせてね。あたしからの忠告よ。タルタルってねあなたも分かると思うけど、大人も子供も見た目じゃ判断つきにくいじゃない・・・」

 アリアは振り返ってカノンの方を見て、うんとうなずいた。

 「つまりね・・・そんな子供っぽい娘を好きになるヒュームって・・・」

 これ以上は、言うべきかどうか迷い躊躇したが、アリアに分かってもらう為に一度は飲み込んでしまった言葉を、もう一度戻した。

 「えっとね・・・つまりはロ○コン趣味の変態ってことよ。だからね、あなたの想いが通じても・・・」

 アリアの表情がパァァァっと明るく変わったのに、カノンは気が付いた。この会話でなんで明るくなったのか、カノンには理解できなかった。が、アリアには今の会話の中のフレーズに思い当たるところがあった。

 (『やっぱりマーリはロ○コンでショ○コンだったのよ〜』って仲間の人が言ってたような・・・?)

 にやにやして、アリアは上下に首を振った。急ににやけ出したその様子に、カノンはちょっと引いてしまったが、明るい表情になったので、少し安心感を覚えた。今のでそのヒュームのことを諦めたとは思えないが、これで少し自分に接してくる人の見方が変わるのではないかとも思った。

 「大丈夫よカノンさん。彼、ロ○コンでショ○コンらしいから、私でも平気っぽい」

 満面の笑みにガッツポーズまで決めた。

 予想外の答えにカノンは、ベンチから転げ落ちそうになったが、右腕一本でなんとか背もたれを掴み体を支えてそれをこらえた。

 「あなた、ロ○コンの意味、分かってるの?しかもショ○コンだなんて・・・。止めなさい、そんな変態ヒュームなんて。人間として道を外してるわ」

 立ち上がって両手や体を動かし、危険な人物であることを猛烈にアピールしたが、当のアリアは首を傾げて、全く理解していないようだった。どうやら意味を本当に理解していない、そんなことには全然興味の無い、アリアは育ちの良い全くの純粋培養のようである。

 (まずは用語の意味から教えないと、その『彼』ってのがどんなに危ないか理解させてあげないと)

 「あのねアリア、ロ○コンってのはね・・・」

 ロ○コンとショ○コンの意味を教えてあげようと、話しかけたそのときだった。今まで比較的静かだった庭に、突然『冒険へ行きませんか?』というような類の声が響いてきた。

 このようなことは、別に珍しいことではない。港、下層、上層、庭・・・この4層のどこにいても、大きな声は聞こえてくる。下層が確かに一番多いが、このような冒険の為に自ら経験を積んで鍛えるような声は、下層じゃなくてもどこでも聞こえてくる。

 「アルテパ砂漠の流砂洞あたりに行きませんか? こちらはシナ赤黒です。回復とアタッカー募集です」

 その声にピクリと、アリアの体が反応した。

 「同じだ・・・あの時、助けてくれた時と同じだ・・・もしかすると」

 ポツリとつぶやくと、アリアは急に立ち上がり、カノンに頭を下げた。

 「ごめんねカノンさん。あたしあのパーティに参加するね。あたしでも丁度いいみたいだし、回復役いないし」

 「あっ、待ちなさいよアリア。話がまだ・・・」

 カノンの静止も聞かずに、アリアは宮殿正面の階段まで走っていった。回復役がそんなに簡単に見つかるわけはないのだが、この庭にいる間に話しかけてパーティに入るつもりなのだろうか、それくらいの勢いで、階段まで走っていった。

 「ごめんねカノンさん。お話はまた今度会ったときに」

 階段の手前で振り返り大きな声を出して、まだベンチの所にいるカノンに手を振った。

 (彼女、同じって言ってたわね・・・同じパーティってことの?まさか・・・ね)

 彼女の想い人がいるパーティとは限らない。むしろその可能性が低いことは、アリア自身分かってるはずだ。ただ何となく、彼女なら、そのうちめぐりあうような気がしてならない。『人の思い(想い)は何よりも強い・・・』なにかの歌の中にそんな歌詞があったようなことを、カノンは思い出した。

 (聞いてるだけじゃ、どう思っても変態なんだけど・・・何で惹かれちゃうかね〜)

 階段を駆け上がるアリアを見送りながら、カノンの口から溜息が一つでた。









―あとがき―


 相も変わらずヘッポコな文章で申し訳ないです。4月前から書き始めたわりには、勢いが良かったのは最初だけで、後は竜頭蛇尾のごとくダメダメな文章となりました。

 途中何度か改修があって、手間取ったってのもありますが、まぁ何故か書いてるときに「あれもこれも」と付け加えてしまうんですよね・・・。書きたい物、全部なんてかける実力なんてないから書けやしないのに・・・。

 最近の自分のFF11の傾向としては「レベル60近くになると鬱になる」ということでしょうか?(笑)赤魔導士も60ぐらいで非常に鬱になって、何もする気無くなったし、今回は詩人が60近くです。

 こんな鬱なときこそ(?)FFであまりインターネットしていないので、PCをネットにつないだりしています。で、せっかくなので、書いたりもしています。

 今回は私が「何かお題は無いですか?」と聞いたら「タルタルの詩人で」とありましたので、それにお答えする形になりました。まぁ普段から「シャントット様サイコ〜」とか言ってますからね自分(笑)しかも、「タル詩人は楽器無しで歌うと投げキッスなんだ〜」とも言ってますから。シャントット様の顔のキャラで楽器無しで歌われると・・・(笑)

 さて3回目のFF系の読み物は出来るのでしょうか?(笑)ネタがあれば何とかなるけど、今は一杯一杯ですね^^;




 えーっと最後になりましたが、今回登場した2人のタルタルの元ネタだけでも(笑)

 *名前のチェック、つまり同名の人がサーバーにいるかいないかのチェックをしていませんので、同名の方がいらしても、この作品とはなんら関係ありません。

 アリア(Air)
  →言わずとしれたJ・S・バッハの「G線上のアリア」から。個人的に好きなクラシックです。

 カノン(Kanon)
  →J・バッヘルベルの「カノン」から。えーっと曲名は知ってましたが、今回初めて作曲家の名前を知りました(爆)

 両曲とも、クラシック系のMidiサイトで簡単に視聴、ダウンロード出来ます。興味の沸いた方は是非聞いてみてください。今の季節、ちょっと前ならどこの学校でも流れる行司定番の曲です(笑)









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