聖夜(第4幕)



 「ところでバーニィさん・・・なんで今日は、こんなにホテルの人がバタバタしてるの?」

 ホテルの玄関に向かっている途中、クリスが唐突に訊ねてきた。

 「えっと〜 今日はクリスマスだし、それにこのホテルに『G−ウィングス』が来るんだ。知らなかった?」

 「えーっっっっ!?」

 思い切り大きな声を上げて、クリスは驚いた。

 「『G−ウィングス』って言ったら、今人気のヒイロ君、デュオ君、トロワ君、カトル君、五飛君の五人組じゃないっ!」

 クリスの声で、従業員とお客の一部が、クリスとバーニィの方を見た。バーニィは‘シーッ シーッ’と自分の唇に指を当て、クリスを落ち着かせようとしたが、効果がなかったようである。

 「そうなんですよ、クリスさん。だから落ち着いてくださ〜い」

 クリスがなかなか落ち着かないので、バーニィは焦りが入った涙声だった。

 「ご、ごめんなさい。あんまり凄いゲストが来るので、ちょっと興奮しちゃった」

 ちょこんと頭を下げて、クリスはやっと落ち着きを取り戻した。何気ない仕草ではあったが、バーニィは一瞬‘ドキリ’とした。

 (やっぱ、今日の僕ダメだぁ・・・)

 「でも、何しに来るの?スケジュールとか一杯じゃないの?」

 「大ホールを使っての、クリスマスパーティーですよ。『ファンとの集い』ってやつです。スケジュールは社長の人力じゃないかな?」

 少し得意げにバーニィは話した。

 「だって、20歳でこのホテルをまとめているんですから、カリスマとか魅力といった力は凄く大きいですよ。だからみんな社長に惹かれるんだと思んです」

 (特にマシュマーさんは・・・)

 最後の一言は、言葉には出さなかった。

 「うーん、説明になってないなぁ」

 クリスの顔を見ながら、苦笑いで言った。

 「あたしたちと、ほとんど同じ年で社長かぁ・・・。すごく魅力的な方なのでしょうね」

 「そりゃもう!カッコよくて、凛々しくて、すごく美人で・・・」

 少し興奮気味で話したバーニィの目は、‘遠い目つき’だった。

 「ふーん・・・。バーニィさん、鼻の下 長いわよ」

 「えっ、あぁ〜」

 バーニィは、あわてて両手で鼻を隠した。

 クリスは、その仕草をみて‘アハハ’と笑った。バーニィも、クリスを見て微笑んだ。

 (いい笑顔だなぁ・・・。元気が出てよかった・・・)

 ‘ドカッ’

 「うゎっ・・・」

 (今日、2度目〜!?)

 廊下の角、出会い頭にバーニィは、誰かとぶつかって尻餅をついた。相手の人も、尻餅をついたようで、お尻をさすっている。

 「大丈夫?バーニィさん」

 クリスはバーニィの側にきて、心配そうにしゃがみこんだ。

 「うん、何とか。ってあれ?イリアさん」

 「すまない、バーニィ君。急いでいたものだから、気が付かなかった。怪我は無いかい?」

 イリアは何も無かったように、すっと立ち上がった。

 「はい、大丈夫です。でも、『急いでいた』って、あまりイリアさんらしくないですね。何かあったのですか?」

 『大丈夫』と言いつつも、お尻をさすりながらゆっくりと起き上がった。

 「えっ!?・・・」

 イリアは、口ごもり考えた。

 (アルバイトのバーニィ君に話してもしょうかない。事態は進展しないだろう・・・。いやまてよ・・・、逆に話したことで何か打開策が見つかるかも・・・?)

 「実は、まだ『G−ウィングス』のメンバーが到着していないんだ。この雪のお陰で、事故と渋滞が重なってしまったのが原因で、こちらに到着するのが遅れているんだ」

 「えーーーっ」

 バーニィもそして、クリスも大きな声を上げた。

 「コラッ!バーニィ君も彼女も声が大きい。他のお客様には内緒にしているんだから」

 ‘シーッ’と唇に指を当てて、二人に注意した。

 「それでその間、お客様を退屈させないように、対策を練るための緊急会議に出るところだったんだ。それで急いでいた為に、君に気が付かなかった。すまん」

 そう言って、イリアは頭を下げた。

 「そんな・・・。僕の方こそ、クリスさんと話してましたから気が付きませんでした」

 慌てて、バーニィも頭を下げた。

 「と言う訳で、先を急ぐんだ。すまない、彼女と二人きりのところを邪魔して」

 「ち・・・」

 「違います。あたし、彼女じゃありません。バ、バーニィさんが迷惑します・・・」

 バーニィよりも先に、クリスがイリアに対して言った。顔を少し赤らめながら・・・。

 (『彼女じゃありません』かぁ・・・。当たり前だよな・・・)

 残念そうな表情に、バーニィの顔が変わる。


 「う・・・。それは、すまない事を言った。この通りだ、えっと・・・」

 「クリス・・・。クリス・チーナマッケンジーです」

 「すまない、クリスさん。私はイリア。イリア・パゾム」

 イリアは頭を下げて誤ると、右手を差し出した。クリスもそれを見て、右手を差し出し、二人は握手した。

 「何だかんだ、結局二人を引き止めてしまったな。ではバーニィ君クリスさん、私はこれで失礼する」

 そう言って二人に別れを告げると、さっきと同じく走って行った。

 「・・・今日のお客さん、クリスマスなのにちょとついてないね」

 バーニィに向かって言ったが、バーニィは話を聞いていない。どこか上の空であった。

 (・・・いや、まてよっ!)

 「ついて来て!」

 バーニィは突然クリスの手を握ると、イリアの後を追った。

 「い、痛いよ。何処へ行くの、バーニィさん?」

 今は、頭の後ろしか見えないが、手を握って走り出す瞬間の顔は、先ほどクリスに話してくれた時の「真剣な顔」と同じだった。

 「ご、ごめん」

 そう言うとバーニィは、走る足を止た。握っているクリスと自分の手を見て、顔が赤くなった。

 「ご、ご、ごめんっっ」

 手を離すと、そのまま‘ペコリ’と頭を下げて、また謝った。

 さっきと違って、あせった表情だった。

 「それより、あたしを何処へ連れて行くつもりだったの?」

 「そ、それは・・・。走りながら話すよ。ついて来て」

 クリスは全く訳が分からなかったが、バーニィの後をついていった。

 「バーニィさん・・・。このルート、もしかしてさっきの人に会いに行くんじゃないの?」

 バーニィが話す前に、クリスが質問した。

 「うん。僕にいい考えが浮かんだから・・・。」

 「それとあたしが、どういう関係なの?」

 バーニィはクリスに、『イリアに会う』というところまでは話したが、それ以上は話さなかった。

 「イリアさーーーーーん!」

 イリアの姿が見えると、即座にバーニィは大声を出した。あれこれと、クリスに聞かれてしまうと、都合が悪かったりするからである。

 「どうしたんだ、バーニィ君。そんなに急いで・・・?」

 あまりに突然な出来事であった為、心配そうに尋ねた。

 「あ、あの、僕に考えがあります・・・。」

 走ってきた為、息を切らしながらも、ゆっくりと確実にイリアに伝えた。

 イリアの表情が、真剣な眼差しに変わる。

 「・・・どんな考えか、聞かせてもうらおう」

 「ハイ!あの、・・・。実はクリスさんって、歌手なんです。それで、お客さんがG−ウィングスを待ってる間に、歌ってもらおうと思うのですが・・・」

 「ちょっとバーニィさん・・・思いっきり聴いてない話よっ!」

 ちょっとどころか、完全に怒った声で、バーニィに詰め寄った。

 「ごめん・・・。先に話しちゃうと、断られるかと思って・・・」

 元気なく、バーニィが答えた。

 「後でも先でも、同じよっ。失礼しちゃうわっ!」

 「ゴメン。失礼なことはわかっています。でも、今この時間のない状況で、このホテルを救えるのはキミしかいないと思ったから・・・」

 頭を深く下げて、ゆっくりと丁寧にクリスに伝わるように話した。

 バーニィが頭を上げると、クリスは大分落ち着きを取り戻しているようだった。クリスだって、この状況の悪さは理解できる。そのことを踏まえての事だと思われる。

 「私からもお願いする、クリスさん」

 イリアも、深々と頭を下げた。

 「バーニィ君の言うとおり、全く時間がないのだ。お願いだ、力を貸してほしい」

 「うっ・・・分かったわ。みんなから頼まれると断れないわ・・・。でも、あたしなんかでいいの?」

 「いま・・・」

 「今、この状況を切り抜けられるのは、キミの力だけなんだ。こういう状況では、人間自分の出来ることを全力でやるだけだと思う・・・」

 バーニィがイリアを制して、先に言った。

 (バーニィ・・・やるなっ!)

 バーニィの発言に対し、満足そうな笑顔を浮かべた。

 「そうね・・・。バーニィさんには借りがあるし、何か恩返しがしたいから・・・」

 クリスは、チラリとバーニィの方を見てからイリアに言った。

 (そんな大したことはしてないけどな・・・)

 バーニィは心の中で、照れた。

 「承諾してくれて、ありがとうクリスさん」

 改めて、イリアは頭を下げた。

 「早速だが、これから部屋の一つを控え室にして、衣装合わせと化粧をしてもらいたい。よろしいかな?」

 「えっ?! もうですか?」

 困惑した表情で、クリスは言った。

 「すまないが、本当に時間が無いんだ。申し訳ない」

 「いえ、分かりました。急ぎましょう」

 クリスは、‘キリリ’と顔を変えイリアの後に続いた。

 「そうだ、バーニィ君」

 イリアがバーニィを呼んだ。

 「キミには、彼女を巻き込んだ責任を取ってもらわなくてはいけないな。キミだけ何もしないのは、話が通らないだろう」

 満面とイタズラな笑みを浮かべて、イリアはバーニィを見つめる。

 「うっ・・・」

 頭の上に、黒い雲が漂っている・・・。そんな感じの顔つきだった。

 (責任って一体・・・?)

 「クリスさん、『責任』の方法はキミに任せる。バーニィ君が出来ることで、キミが望むことなら何でも言ったほうがいいぞ」

 先と同じ笑みを、今度はクリスに対して向けた。

 「ハイッ!分かりましたっ」

 クリスもノリノリの雰囲気である。元気のある、いい返事だ。

 「そ、そんなぁ〜〜」

 まだ、頭の上の黒い雲が振り払えないでいる、バーニィだった。

 「じゃぁ早速、今日の約束をはたしてもうらおうかしら?」

 クリスも、イタズラっぽい笑顔をバーニィに向けた。

 「えっ!?」

 「急ぎましょう、イリアさん」

 バーニィの事を無視するがごとく、イリアを急かした。

 「そうだな。では、バーニィ君、ちゃんと約束をはたしなさい」

 「はははっ・・・」

 バーニィは苦笑いで返すのが、精一杯だった。

 (約束ってあれだよな・・・?)

 バーニィの心に思い当たるのは、一つしかなかった。









―あとがき―

 相変わらずチープです。

 そしてこの日が、クリスマスです。(核爆)

 結局、間に合いませんでした。最悪、今年中には完成させます。

 あと1幕で終わるかもしてませんので・・・。(これ、前も書いたな、爆)

 今、キャラがとてもいい感じで、動いてくれていますので、あと1幕は比較的楽なのではないかな?と思っております。

 相変わらずの駄文に、あともう1幕お付き合い下さい。

 「ホテル アクシズ」はこれで最後っぽいですから(笑)

 最後のお話、頑張ります。




   NEXT EPISODE へ



     トップページへ戻る                   「ホテル アクシズ」へ戻る