十人十色
食事を早めに済ませると、マシュマーはニュータイプへと足を運んだ。
食後の一杯のコーヒーはいつものことなのだか、今日は休憩時間中をアクシズで涼みたかった。
(うっ・・・)
アクシズに入ると、カウンターの隅のほうに、ゴットンを見つけた。ゴットンもこちらに気が付いたらしく、手を振ってマシュマーを呼んだ。
「先輩も涼みに来たんですか?」
そんなとんでもないことを、さらりとマシュマーに質問した。
「お前は・・・堂々とそんなことを言うな。仕事をしてないように聞こえるだろう」
ゴットンにしか聞こえないような、小さな声で怒鳴った。
「すいません」
ちょこんと首だけを下げて、謝った。
(こいつ、本気で謝ってないな)
ニュータイプに来た直後、気分的に疲れてしまった。
「いらっしゃい、マシュマーさん」
グレミーは、まだ何も注文してないマシュマーにサラリとアイス・コーヒーを差し出した。
「常連になると、注文しなくても、いつものが出てくるところがいいねぇ」
「常連なら、いい加減にあたし達を見分けられるようになってよね」
(うっ いかん。墓穴を掘った)
プルから、ピンポイントに手痛い攻撃を受けてしまった。
「だが、ギーレン兄弟は見分けがつくぞ」
マシュマーは、ハッキリと言い切った。しかし、それが何のフォローになっていないことは、場にいる全員(グレミー、プル、プルツー、ゴットン)が分かっていた。
「先輩、それ何のフォローにもなってないですよ〜」
実は分かっていないのか、それとも分かっていての『ボケ』なのか、ゴットンはマシュマーに笑いながら言った。
「ゴットン、後で覚えておくように!」
そう言って、ゴチンと頭を殴ると、ニュータイプの従業員全員の笑をとった。
「やっぱり、何時かお二人で、あんなバラエティ番組に出てみたら?」
グレミーのいつもの屈託の無い笑顔で、店内のテレビを指差した。ちょうど、若者向けのお昼のバラエティ番組を放送していた。
「おっ!出てるね〜。お昼から^^ 目の保養になる〜♪」
目を細めて、妙にニコニコ(ニヤついてるようにも見えるが)しながら、さっきまで読んでいたスポーツ新聞を開きだした。
「ほら、これですよ。先輩」
芸能面を開いて、特別大きい見出しを指差した。
「なになに・・・。 『シュラク隊 3人の新メンバーを加えて ますます大活躍』・・・?」
目を閉じて、眉間のシワを二本の指で触った。
「ゴットン君・・・。こんな記事ばかり読んでるから、頭が悪くなるんですよ」
マシュマーはこんなキツイことを、何のためらいもなくゴットンに言った。当然、さっきのことを根に持ってのことである。
「シュラク隊かぁ・・・。私も興味ありますね」
テレビに登場しているシュラク隊(当然、新メンバーも出ている)を見て、グレミーが二人の会話に入ってきた。
一瞬だが、洗い物をする音が止まった。
「今までヘレンさんだったけど、新メンバーのフラニーちゃんもいいなぁ♪」
ゴットンは、鼻の下が‘ビヨ〜ン’と伸びきっていた。もう笑顔ではなく、完全に『ニヤ』ついている顔である。
「何だ、その顔は。こんなところを、もしイリアにでも見られたら私まで同じに思われるじゃないか・・・」
ゴットンの顔を見て、すでに呆れてしまっていた。
「大丈夫ですよ。今日は、イリア先輩は来ないと思います」
「ったく・・・。何処から来るんだ、その自信は・・・」
二人のいつもの調子に、グレミー達も笑いが吹き出しそうだった。
「まぁ先輩は、今のリーダーのジュンコさんか、プロデューサーのオリファーと結婚して、シュラク隊を引退した、前リーダーのマーベットさんが好みと見ました」
「な、何を言っている、ゴットン。私は社長一筋だ」
額を拭いながら、答えた。
「またまたぁ。先輩は、リーダーシップを取る女性に惹かれると思ったんですけどねぇ」
顔をのぞきこんで、顔色を伺うようにマシュマーのほうを見た。
「ち、違う。私は社長一筋なのだ」
「力一杯の表現だろうが、マシュマーさん、初めの一言目、噛んでるぞ」
洗い物が一段落ついたプルツーから、シャープなツッコミが入った。
プルのほうも、一段落ついてプルツーと一緒にテレビを見ている。
「うっ・・・」
マシュマーは、これ以上シュラク隊のことで何か言うと『ボロ』が出そうなので、しばらく黙ってテレビを見るようにした。
「何か、図星ってところですね」
ゴットンが言った直後、マシュマーからの鉄拳が、ゴットンの頭に直撃した。
ゴットンは、これ以上マシュマーにシュラク隊のことを言うと、マジでトイレに連れ込まれそうと思ったので、黙ってテレビを見ることにした。
「ん!マヘリアさんかぁ・・・」
グレミーがテレビに映ったメンバーの一人、マヘリアを見て目を緩めた。
「ん!?グレミー君、マヘリアさんがタイプなの? さすが、お目が高い。シュラク隊一のプロポーション・・・てっか、『ナイスバディ』の持ち主だからね〜」
ゴットンは目をキラキラ光らせて、グレミーのほうを見た。
(こいつ・・・。さっきから全然目の色が変わっていない。誰でも好みなんじゃないか・・・?)
ゴットンの緩みっぱなしの目と、伸びきった鼻を見て、マシュマーはそう思った。
「そうか・・・なるほど。グレミーは『髪が長く、赤い口紅の似合う濡れた唇の持ち主で、胸の大きな女性』が好きなのか・・・。悪かったな!どうせ私は、髪は短くて、赤の口紅は似合うかもしれないけど・・・、胸が小さくて!」
プルツーが腕組みして、‘ブス〜’とした顔でグレミーを睨んでいた。殺気に似た、妙な空気が、カウンターのマシュマー達を襲った。
「そ、それはそのぅ・・・あくまで理想のタイプであって・・・」
当然、その殺気に似た空気は、グレミーに向けられたもので、グレミーはその空気とプルツーの気迫に押されて何もいえないでいた。
(クククッ 困れ困れ)
グレミーの困った顔を見て、プルツーは心の中でクスクスと笑った。何とも言えない(プルツー的に好きな)顔だったので、それ以上攻めないことにした。
「あっ、ウッソ君!」
テレビを指差して、突然プルが叫んだ。その少年は13〜14歳ぐらいで、舞台の中央に立っており、(いや、カメラがその少年に寄ったのか?)手には、ポスターを貼り付けた看板のようなものを持っていた。
「今日、月曜9時から、僕が出るドラマが始まります。是非、見てください」
まだ出たての新人なのか、とても初々しく、嬉しそうな笑顔を向けていた。
番組を見学しに来たお客さんの内、女性客の黄色い声を、全てその笑顔で持っていってしまった。
‘キャ〜 ウッソく〜ん’
テレビから、大きな拍手と歓声が聞こえてくる。
「すげー人気。新人なのに凄いねぇ、ウッソ君」
ゴットンは、‘ウンウン’と首を縦に振りながら、腕組みして感心していた。
「ウッソ君、月9だよ〜。ビデオに録画しないと。ねっ、プルツー」
プルが確認を求めているようで、プルツーの体を揺すった。
「ん、あぁ。予備があったよな?」
「多分、ノーマルなら・・・。HGは、買って来ないと無いかも・・・」
二人して顔を合わせ、自宅のビデオテープのことを心配していた。
「なるほどね〜。プルツーさんはウッソ君ですか・・・。わがままだけど、芯が一本通っていて、笑顔が素敵な年上お姉さんキラーのウッソ君がタイプなんですね・・・。私はわがままです。芯も一本通ってると思うんですけど・・・お姉さんキラーにはなれません」
(どちらかと言うと、ロ×コ×だろ!) マシュマー&ゴットン
二人とも、口には出さなかった。心の中で思いっきりツッコんだ。
「グ、グレミーのバカァ〜」
意外な答えが返ってきて、グレミーは驚いてしまった。
慌ててプルツーのほうを見ると、グレミーに背中を向けて、裏口のほうへ走っていく姿が一瞬だけ見えた。
「あらら・・・」
グレミーはプルツーとあえて顔を合わさず話したので、全く表情が分からなかった。しかし、『そんなリアクションが返ってきた』ことの重大さは、すぐに分かった。
「プル、店を頼む」
着ていたエプロンを素早く脱ぎ捨てると、店の鍵をプルに投げ渡した。
「うん。早く行ってあげてね」
鍵を受け取ると、笑顔でグレミーを見送った。
グレミーは、‘じゃぁ’と軽く手を上げて、プルツーの向かった裏口のほうへ走って行った。
「グレミー君、どうしたんだい?慌てて出て行ったみたいだけど?」
グレミーが急いで出て行ったので、マシュマーは不思議そうにプルに聞いてみた。
「ん、ううん。いいから、何でもないよ」
プルは、手の平を振って何事でも無いことをアピールした。
その仕草が、マシュマーから見れば『何かあること』を表わしていることを思わせた。
(プルってウソが付けないのか・・・?)
マシュマーは、それ以上聞かないことにした。
「さて、時間も時間だし、もう持ち場に帰るぞ」
ゴットンを椅子から無理矢理引き離すように、首根っこを掴んで強引に立たせた。
「な、何するんですか〜。もうちょっとシュラク隊を見せてくださいよ〜」
ゴットンの目は、今にも涙が出そうだった。
(・・・こいつと付き合うと・・・やっぱり疲れる)
「私たちは、これで失礼するよ」
そのまま、レジまで強引に引っ張ってきた。
「まだ時間あるのに・・・。気を使わせてゴメン・・・」
「ん?何のことかな?もう、休憩時間も終わりだからね・・・もう帰るだけさ」
ちょっと悲しい目のプルに、軽くウインクして答えた。
「まだ、10分ありますよ〜」
やっと開放されたゴットンは、まだ未練があったようだった。目線が、まだテレビのほうであった。
「5分前に行かないと、イリアに何言われるか分からんぞ!」
「イリア先輩ですか〜」
‘イリア’と聞いて、渋々とレジでお金を払った。マシュマーにしてみれば、‘イリア’と聞いて清算するゴットンに納得がいかなかったが・・・。
「本当にゴメンね、マシュマーさん」
「何のことか分かんないよ」
マシュマーはそう言って、ゴットンと一緒に店を出た。
(何も聞かないってことは、分かってないのか・・・こいつ?)
お気楽そうなゴットンの顔は、プルの言葉の意味をまったく理解していなかったようだ。
(私も全部分かった訳じゃないが・・・こいつは・・・まぁ分からない方が、いいこともあるか)
「さて、午後からも頑張るか」
両手を伸ばし背伸びをして、マシュマーは気合を入れた。
―あとがき―
『祝!VガンダムDVD化』なので、前からあったイメージを書いてみました。
お分かりかと思いますが、シュラク隊=モー娘。です(笑)
しばらく書いてなかったので、キャラの性格が変わっている部分もあると思いますが・・・
この話は基本的に『1話完結』なので、コロコロ変わるかもしれないのです(笑)
・・・と、自分に言い聞かせて書きました。本当は絶対よくないことなのですが・・・。
いつものごとく、駄文です・・・。技術的に上がったといえばボキャブラリーが若干増えたことでしょうか?
しかし、使えなければ今までと同じだし、基本的に表現力がないと書いていても状況説明が貧弱になりますから・・・。あまり成長してません。
現在書いている『最終勇者〜』も不安なまま書いてます・・・。
でも、約束しました。『ジパングまで書く』と。書きます。書きたいんですもん(笑)
(必要のない)細かい設定まで、考えてるんですから(笑)
こんな動機じゃダメかもしれませんが、暖かく見守ってください(爆)
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