決戦 目前
「ホテル アクシズ」は夜になると、みんなラウンジに集まる。夜景が綺麗なことで、有名だからだ。
先代の会長と社長が、「全てのお客様に」のコンセプトで作らせたのである。なかなかイキなはからいだ。
しかし今は営業時間が過ぎており、客の姿が見えない・・・。
ホテルの社長であるハマーン・カーンと、コートを着てサングラスをかけた人物――この2人を除いて。
「バーテンダーは、先ほど帰した。これで、ゆっくりと話ができるな。答えてもらおう。何故今ごろになって、私の前に姿を現した、シャア!」
『バン!!』
ハマーンはイスから立ち上がり、ボックス席のテーブルを勢いよく叩いた。表情から全く読み取れないが、よほど腹立たしいのであろう。テーブルに叩きつけた手が、握りこぶしに変っていた。
‘シャア’と呼ばれた男は、その音に動じることもなく、逆に落ち着いていた。
「その名はもう捨てた、ハマーン。今の私は『クワトロ・バジーナ』だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そんな事は、どうでもいい。私の質問に答えろ!」
ハマーンは、先ほどよりも感情的になっていた。表情はいつも通りだが、態度でそれが分る。いつもの冷静な彼女からは、考えられないことだ。
しばらくの時をおいて、‘クワトロ’と名乗る男は、静かに答えた。
「君に話したいことがあってね」
「なっ!?何を今さら・・・」
クールな口調で冷静さを保っているようだったが、内心ハマーンは少し驚いた。‘クワトロ’は、さらに続けた。
「今の世の中はどうなっているか、わかっているな?」
「ああ。子供にだってわかる。腐りきった連邦政府と、それに盾突こうとする者を取り締まる『特殊部隊 ティターンズ』が横行する狂った時代だ」
イスに座りながら、ハマーンは答えた。テーブルを叩いた時に比べて、だいぶ落ち着いたようだったが、少し諦めの入った、冷たい吐き捨てるような答え方だった。
「全くそのとおりだ。私はそんな時代を終わらせる為に、『反政府組織 エゥーゴ』で活動している。そしてこ・・・」
「そして・・・」
‘クワトロ’の話がまだ終わらないうちに、ハマーンが入ってきた。
「そして貴様は、私に近づいた。政界、財界にコネのある私を通じて、政府高官に取り入ってもらう為にな。その後、まんまと政府を騙し、重要な『何か』を盗んだ。違うか、シャア!」
「・・・そうだ」
即答ではなかった。答えとは違う別の何かを言いたかったのだろうか、つまったような感じの答え方だった。
答えを聞いてハマーンは急に立ち上がったかと思うと、テーブルに身を乗り出し、片手をテーブルにつくともう片方の手で‘クワトロ’の頬を叩いた。
『パシーン』
乾いた音が店に響いた。と同時に‘クワトロ’のサングラスが床に落ちた。
‘クワトロ’はサングラスを拾い上げると、ハマーンを見た。
両方の目が潤んでいた。
「貴様は、それでいいかもしれん。だが、私はどうだ!?貴様が姿を消した後、ティターンズにどれだけ苦しめられたか・・・」
涙をこらえ、必死でハマーンは言った。顔が涙ぐんでいても、彼女の気丈な口調はそれでも変らなかった。
サングラスをかけ直すと、ハンカチを取り出し、ハマーンに差し出した。
が、それをハマーンは受け取らなかった。目は潤んでいたが、彼女の意地が、そうさせたのだろう。
‘クワトロ’は先ほどと同じ冷静な口調で、
「・・・私はあの時、ティターンズの不正が記してある機密文書を盗んだ。そしてそれを今度ダカールで行われる会議で公開する」
「会議を襲撃するつもりか?」
‘クワトロ’はコクリとうなずいた。
(こいつ、本気か!?)
ハマーンはそう思ったが、声には出さなかった。‘クワトロ’の表情が、それを物語っていたからだ。ましてこんな時に、冗談を言う男ではないことも知っていたからである。
「君がティターンズに目を付けられ、圧力をかけられていることは知っていた。謝って済む事ではないのはわかっている。しかし、今の私にはこうする事しか出来ない」
「すまない」
‘クワトロ’深く頭を下げた。
「こんな事をしても、君に対する罪は消えない。だがこれで、君の会社に対する罪は何とかなる」
そう言って頭を上げると、持ってきたアタッシュ・ケースをテーブルの上に置いた。
‘パチン パチン’
止め金を外しフタを開け、ケースの中をハマーンに見せた。
中身は金塊だった。どのくらいの額になるだろう?皆目見当がつかない。
「少ししか無いが、これを会社の為に役立ててくれ」
‘パチン パチン’
こんどは、止め金を閉めた。
「受け取ってほしい」
‘クワトロ’は、アタッシュ・ケースをハマーンに差し出した。
「私が欲しいものは、そんな物ではない。私は、おま・・・」
そこまで言って、ハマーンは言うのを止めた。
「いや、わかった。それは受け取ろう。従業員の、ボーナスにでも当てるさ」
あわてて、言い直した。
「言いたい事がそれだけなら、早くここから立ち去れ。貴様の顔など、もう二度と見たくない」
ハマーンは‘クワトロ’から顔をそむけた。
「ああ。これが最後かもな。さらばだ、ハマーン」
‘クワトロ’はハマーンに背を向け、出入口のほうへ歩いた。
「シャア・・・、いやクワトロ、もう・・・」
また、言葉を否定した。
「ん、な、何でもない。ダカールでの無事を祈る。お前でも知人だからな。死なれていい気持ちはしない」
「ああ。ありがとう」
微笑みながらそう言うと、クワトロはラウンジの外に出た。
見送ったハマーンの顔は、いつもと違っていた。
その瞳には、悲しみの色が見えていた。
―あとがき―
なんとか第3回となる作品。今回の話は、構想自体は前からあったのですが、校正で時間をかけまくったあげく、アップするのに約1ヶ月かかりました。
んでまぁ1ヶ月かかったわりには、いつもと変わらないヘッポコな作品になりました。私に文章を書く能力と、高い描写能力があれば、よりよい作品になったはずなのですが・・・。
実はこの作品には、原案があります。私の7〜8歳年上の方で国立大学(私の地元)の文芸部の人の作品です。
私が中学生の時、とあるお店で無料配布していた同人雑誌「ミニ準星」(漢字これでよかったかな?)に掲載されていた作品を、ガンダムwiht「ホテル アクシズ」風にアレンジしてみました。
原作の方は一人称で、女性から見た作品でした。革命(だったかな?)実現の為に利用された女性の話でした。のちに、革命後の男性が、どのような気持ちだったのかを表した後日談もありました。
一人称の作品を三人称に書き直しただけで、結構辛い物になるのに、私がアレンジしているから余計にひどい作品になってしまった・・・。原作は、いいお話で「男性を愛し、裏切られそして・・・」やっぱり最後は、言えないです。ちょっと泣ける作品だからです。
『カッコいい(渋い)シャアと、態度と心がウラハラなハマーン』を表現したかったのですが、なかなか上手くできませんでした。(反省m(__)m)私以外の方が書けば、もっと素晴らしい作品になったと思います。
過去の作品(第1回、第2回)とのつながりは、ありません。この話は、単独の物です。もしつながりが有るとすれば、それは第1回よりもっと昔の話になると思います。(第0回とか第0.5回とか、かな?)
今まで単独の話はなかったので、こんなの話もありってことで書きました。
第4回も現在構想中! 次回に刮目せよ!(←偉そうな事言うな 『ばきぃぃぃ!』)
最後に一言
今回のような、どの話ともつながらない話や、過去の作品とリンクしている話、新規の作品等、皆様のご応募をお待ちしております。どんな形でも良いので、掲載させて頂きますのでよろしくお願い致します。
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