雨、降り出した後



 朝からの‘どんより’とした天気は夕方で終わり、それは雨をもたらした。

 ‘ポツリ ポツリ’とわずかな音を立てて降り始めてきた。雲行きはあやしく、これからひどく
なりそうだ。

 「あちゃー、本当に降ってきたよ。」

 マシュマーは手を顔に当てて、上を見上げたまま言った。

 「先輩、何か失敗でもしたんですか?」

 漫画などでお馴染みの、いかにも『ミスった』時の典型的なポーズだったので、ゴットンが聞いてきたのだ。

 「私は、何もしていない!雨が降ってきたから嘆いていただけだ。」

 「雨ぐらいで嘆きますか、普通?」

 「うるさい!私はロマンチストなのだ。」

 マシュマーは‘うるさい’が言い終わらないうちに、ゴットンの頭をしばいていた。

 「何をそこで、漫才をしている?」

 突然イリアが入ってきた。イリアの言うことはもっともである。傍から見れば二人のやり取りは漫才以外の何物でもなかった。二人の絶妙の間、そしてツッコミの入れ方とそれを受ける相方、長年のコンビだけが出せる高度な技であると感じとれた。

 「私は漫才などしていない。それはコイツが・・・」

 「はいはい。わかったから、真面目に仕事して下さいね。」

 マシュマーの発言をサラリとかわし、嫌味たっぷりに言い返した。

 「イリア先輩の言うとおりですよ。仕事に戻りましょう。」

 「お前は・・・」

 またゴットンをしばく。

 「イリアにあそこまで言われて何も・・・」

 (こんな顔をしているヤツに、何を言っても無駄だ。それよりもここで何か言ったら、またイリアに‘漫才’って言われる。)

 そう思ったマシュマーは、途中で言うのをやめた。

 ゴットンの表情は、イリアの嫌味に全く気付いていない様子だった。

 「ん?マシュマー、私が何か言ったか?」

 「その言い方が『私、何か言いました』って感じなんだよ、イリア!」

 マシュマーは、すぐさま切り返した。先のツッコミといい今回の切り返しといい、このようなことはマシュマーにとって日常茶飯事なのか慣れたものである。ツッコミの腕が上がるわけだ。

 「そんなことより先輩達、早く戻りましょうよ。こんなところ、社長に見つかったら怒られますよ。」

 ゴットンが急かしてきた。

 (お前が言うな!)

 マシュマーとイリアは思った。お互いに口にしなかったのは、もしそれを言ってしまったら完全にトリオ漫才になっていたからである。まして二人同時に言ったなら、なおさらだからだ。

 (やれやれ)

 マシュマーは、心の中でぼやいた。「もう、つきあいきれん!」といった感じなのだろうか?

 「ふぅー、そうだな戻ろう。」

 大きなため息を一つし、髪をかき上げながらマシュマーは言った。

 「私達は、ここで油を売っている場合ではないからな。」

 「そうです。イリア先輩の言うとおりです。戻りましょう。」

 (何かいっぺんに疲れた・・・。)

 イリアとゴットンの足取りとは違い、マシュマーは肩を落とし少々‘げんなり’した足取りだった。

 「シャキッとせんか!マシュマー!」

 『ドキッ』としてマシュマーは慌てた素振りを見せた。声の方向を見ると、イリアが口に手を当てて思いっきり笑っていた。

 (一瞬、ハマーン様かと思ったよ。)

 イリアと分ると『ホッ』としたのだが、先ほどより輪をかけて疲れた様子だった。

 イリアへのからかいのお返しは、言葉や態度ではなく苦笑いだったからだ。
 
 「冗談はやめましょうよ、イリア先輩。」

 ゴットンも慌てていた。というより、この事が後で自分に対し、とばっちりが来るのではないかと心配していた。

 (これがマスターの言っていた悪い事か?)

 背筋をピンと伸ばし気を取り直したマシュマーは、先ほど言ったグレミーの一言を思い出した。










―あとがき―


 とりあえず第2回となる作品。実は今回の話は、別の話を書いている時に思いついた「副産物」的な作品です。「前振りが長くなったので、このまま話を作っちゃえ」みたいなことで出来た物です。しかも、始めと最後だけをつなげて、第1回の作品の続きみたいなものにして・・・。何か卑怯。(笑)
 そして「別の話」というのは第4回の話で、そこから生まれたものですから、第4回外伝ということになると思います。
 まだ、第3回の話も書いていないのに気が早いです。しかも外伝・・・。
 「毎回ボキャブラリーが少ないぞ」とか「一人称なのか三人称なのかはっきりしろ」等の意見があると思いますが、すいませんご了承下さい。
 なるべく人称の方は統一しようと努力はしているのですが、本人が好き勝手に書いていますので、途中から(いや、書き始めからか?)メチャクチャになると思います。
 ボキャブラリーの方は、「いい表現」や「いい言葉」がなかなか思いつきません。知っている言葉を繋げて、なるべく分りやすいように書いていきたと思います。
 とりあえず、「第4回まで話がある」ってことで楽しみにまってて下さい。(え、待ってない?)
 最後に一言
 作品の応募をお待ちしております。どんな形でも良いので、掲載させて頂きますのでよろしくお願い致します。










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