ドッグ・ファイト



 敵MSの攻撃は、全く容赦が無かった。

 しかし、ただそれだけだった。

 当てようとしているだけの攻撃で、牽制やおどしといった『仕掛ける』攻撃を全然はさまないので、かわすことは容易なことだった。

 「ミラーを見なくても、回避できそうだぜっ!」

 俺は鏡にテープを張り、それを単にキャノピーに付けただけの、急造で作った後方確認用ミラーを見て言った。

 「誤魔化しが効く素人であってくれっ・・・」

 俺は、敵のパイロットを勝手に決め付けた。そう決めなければ、この場は切り抜けられないと思ったからだ。

 「ちょっとユー、あんた弾が切れたでしょ!?」

 無線から、高い女の声が聞こえた。あまりにヒステリックな大きさの声だったので、俺は思わず耳を押さえてしまった。

 「あらら、天才整備士と名高いマリンちゃんには、流石に分かってしまったか・・・」

 俺は、‘ニヤリ’と笑った。

 「相手が素人だから良いものの、あんたどうするのよ?分かってるの、私たちの任務?」

 何故だか知らないが、マリンが凄く怒っている。俺は怖いので、真面目に答えた。

 「この機体を、無事ジブラルタルのマス・ドライバーで宇宙に届けること・・・」

 「分かってるじゃない。だから、あな・・・ううん その…体には傷を…れないのよ」

 瞬間的に無線の調子が悪くなったようで、途中が聞き取れなかたが、マリンが何を言いたいのか大体分かった。

 ≪整備士泣かせのヘボパイロット≫

 マリンが俺に対する口癖だ。

 確かに俺は、よく機体を傷つける。戦争をやってるんだ。体だってヤバい状態で帰還するかもしれないのに、機体だけで済んでるなんていい方だと思っている。

 『機体には傷を付けずに、届けて欲しい』 というようなことを言った事は、無線の内容とマリンの性格から、読み取れた。

 (こんな時くらい、体のことも心配して欲しかったな)

 「ユー、聞こえる? 今からハンガーを出すわ。上手く受け取ってね」

 余計なことを考えていたら、攻撃をギリギリでかわす事が多くなってきた。本気で集中しないと、素人(と思っている)相手でも、こっちが撃墜されてしまう・・・。

 そこへ来て、こんどは無線から、無茶な内容の話が飛んできた。

 「なっ・・・何を突然・・・。大体、ハンガーの射出なんて、‘代表’が許す訳ないだろ!」

 (無茶をするのは、俺の専売特許だと思っていたが、土壇場になると女ってのは、するもんだな・・・)

 「ヨウ君、マリン君の作戦を許可する。ハンガーを受け取りたまえ」

 「代表!?」

 ‘代表’の無線割り込みもそうだが、マリンの話に許可を出したことに、俺もマリンも驚いた。

 常に的確な判断で俺たちの部隊をここまで導いてきた‘代表’の言葉とは、全く思えなかった。

 「我々の任務は、ハンガーとブーツ、そしてコア・ファイターをジブラルタルに届けることだ。しかし、本当の我々の任務はもっと深い」

 ‘代表’のトーンが急に低くなった。どうやら重大な話らしい。しかし、俺はその重大な話をまともに聞ける状態ではないのが実情だ。

 「我々の真の任務は、コア・ファイターとそのパイロットをジブラルタルから宇宙へ届けることなのだよ。ハンガーとブーツは予備のパーツがある。しかし、パイロットとそれを守るコア・ファイターは、まだ数が少ない。まして、パイロットとなると、機械の様に作ることは出来ない。君の命は、ここで最も重要なんだよ・・・」

 回避運動中で尚且つ、もう一機のMSの砲撃で、雑音がひどくて普段の俺なら聞き取れなかったが(笑)、この無線だけははっきりと聞こえた。

 「‘代表’・・・俺、‘代表’のこと尊敬してました。正確な判断と大胆な作戦は、俺には無い凄い能力だと思っていました」

ポツリとつぶやく様に、俺は言った。正直なところ、少し失望した。しかし、そういう感情に浸っている余裕は今どこにも無い。

 「ヨウ君、分かってくれ。パイロットの命は、ただの象徴である私の命より重いのだよ・・・」

 「象徴・・・だとしても、あなたの力量は本物だ。俺は、あなたの下で働けてよかったと思っています。だから俺、やりますよ。もともと、みんなを守るために勝手にコア・ファイターを借りたんだから。」

 そう、俺はこの機体を勝手に拝借しているのだ。と言っても、敵の襲撃時、すぐに動ける機体がこのコア・ファイターだけだったのも理由の一つなのだが・・・。

 「マリン! ハンガーと・・・それにブーツも射出しろ。どの道、ハンガーの射出で敵に位置がバレる。それならMSになって2機とも退けたほうがいい」

 俺は、コクピット内で吼えた。砲撃で向こうもこちらの無線を上手く聞き取れないなら、こちらで大声を出してやった。

 「ユー!‘代表’はブーツまで許可してないわよ。あなたの一存でそんなこと・・・」

 「いや・・・。私はかまわん。それに、ハンガーだってマリン君の一存だったじゃないか。ブーツも許可する。ここはヨウ君の判断に任せる」

  思わず笑顔をこぼしてしまった。俺は‘代表’のこういう判断が好きで、それを待っていた。

 「ありがとうございます‘代表’。2機とも退かせて見せます」

 「でも、ユー、あんた空中換装なんてやったこと無いでしょ!出来るの!?」

 マリンが、(おそらくブーツの射出準備の最中であろう)俺に突然聞いてきた。

 「あぁ。ハッキリ言ってこのコア・ファイターに乗るのも初めてなら、空中換装も初めてだ!」

 ズバリと、言い切った。

 「大丈夫・・・なの?」

 流石に心配そうに、マリンは言ってきた。

 「俺は、元・飛行機乗りだぜ。空中給油で要領はつかめてるつもりだ。後はタイミングの問題だ」

 「・・・今は、あなたを信じるわ、ユー」

 マリンの声が、『しおらしい』女性の声だった。

 (キツ目の性格でも、女は女なんだな・・・。やっぱり女子供を戦争に巻き込んじゃいけないんだ)

 「パーツの射出のタイミングは、俺が急速上昇したときだ。方向は俺を追ってきてるMSの後方をかすめる様に、ほぼ真南になるはずだ」

 気を取り直して、マリンに指示を出した。指示を出したり、指揮をしたりするのは得意じゃない。が、今回の俺の作戦(戦法)は‘賭け’の要素が大きい。負ければ全滅だが、全員が生き残る可能性もある。
  
 今、その全員が生き残る可能性に俺は賭けている。少しでも生き残る可能性のある方に・・・

 「ハンガー、ブーツ 共にOKよ」
  
 「了解した。マリン、仕掛けるぞ!」

 敵の射撃が、だんだんと正確になってきた。当たって撃墜されてしまったら、無意味だ。マリンの無線を聞いて、俺はコア・ファイターの向きを変えた。その直後、空の真上に向かって機体を垂直に引き上げた。

 急加速のGで、体が後ろに引っ張られた。内臓が口から全部出そうな気分だった。

 (朝飯、食ってなくてよかった・・・)

 コクピットにアレをぶち撒けなくて、ちょっとホッとしたが、和んでいる暇なんて全然ない。

 あるところまで上昇すると、今度は機体を180度反転させた。敵から見れば、コア・ファイターの‘腹’を見せたことになる。

 そこから一気に下降して、体当たりするように敵MSに突っ込んでいった。

 敵MSは、俺の動きを追うように狙いを付けていた。しかし、敵は俺の方を向いているが、ライフルが俺の動きについてこれなかった。全く照準が定まっていない。

 「遮光装置の起動が少し遅かったな。学校で習わなかったか?『太陽を直接見てはいけません』って」

 敵は俺を真正面に捉えているのに、一発も撃ってこなかった。

 (この目くらましも数秒だが、それで十分だ)

 俺は、敵をターゲットスコープに捉えると、トリガーを思いっきり引いた。

 「実は、弾倉にまだ残ってるんだよ。全部くれてやるっ!」

 バルカンの弾を、俺はほとんど命中させた。ただ立っているだけの標的相手に、外してしまったら、パイロット失格だ。

 「ユー!ハンガーとブーツ、そっちに…たわよ。受け……

 マリンの無線の向こうから、砲撃の音が聞こえた。射出の方向から、地上を走るトレーラーの位置が敵にも分かったようだ。途切れ途切れの爆撃音から、確実に狙ってきている音へと変わった。

 「流石は天才整備士。タイミング、ドンピシャだ」

 敵を舐めるように、俺はギリギリでMSを回避した。回避する直前、MSの後ろを横切るように、2機のパーツが飛んでいくのが見えた。

 (くっ・・・俺の機体の速度の方がちょい速いか・・・)

 俺は無線誘導を同調させる為、コア・ファイターの速度を落とした。

 (今度は下げすぎか・・・空中給油と同でなかなか手ごわいな・・・)

 何とか速度を調節して、無線誘導を同調させた。ここからが、ドッキングの本番なのだが敵がそう簡単に許してくれないのは分かっていた。

 (そろそろロス・タイムに突入か・・・一発で決めなきゃサドンデスだ)

 軸合わせのレーザーロックが、なかなか合わない。焦りは禁物と分かっていても、焦ってしまう。それが余計に力が入り、自分自身で難しくしている。

 (・・・さん、俺に力を)

 俺は胸に手を置き、過去のことを思い出した。


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 俺は顔を伏せながら、シュミレーション・マシンから降りた。

 対戦相手も靴音がしたので、マシンから降りたのが分かった。

 そのまま足音が大きくなり、俺の目の前で止まった。

 「大の男が、何泣いてんのよ」

 彼女は、俺の所に来ると、開口一番冷たく言った。

 「でも、俺・・・」

 涙を抑え為に、腕を顔に当てた。

 「俺、悔しいです」

 嗚咽を殺しながら、俺はポツリと言った。

 「そりゃ、あんたとあたしは同じ釜でご飯を食べて、同じ部屋で訓練を受けた中だ。いつもあたしが勝ってたけど・・・。なのに、今日は凄いじゃないか!負けっぱなしだったのに、あたしをあそこまで追い詰めるなんて。それで負けたのが悔しいのかい?」

 今度はさっきと違って、優しく言ってきた。彼女なりに気を使っているみたいだった。

 「そうです。マヘリアさんの言う通りです。この間までの訓練では、マヘリアさんの相手にならなかったのに、最終選抜試験で、初めて追い詰めたのに・・・俺・・・」

 「まぁ、最後に物を言ったのは、フライト時間とパイロット経験の差かな?」

 マヘリアさんはそう言って、俺の頭を‘グシャ グシャ’とかき乱す様に、なでた。

 「あんたは、あたしより若いんだから、もっといろんな飛び方を学ぶんだ。そうすれば、いつかは立派なパイロットになれる」

 俺の頭から、マヘリアさんの手が離れた。

 俺は、絶対に頭を上げないと決めていた。涙(と鼻水)で見っとも無くなっている顔だけは、絶対に見せたくなかった。

 「ほら、こいつで涙を拭きな。男が泣く時は、よっぽどの時だけにしときな」

 目の前に、ハンカチを持ったマヘリアさんの手が現れた。

 俺は、そのハンカチを受けとらなかった。妙な意地が邪魔して、それをさせなかった。自分でもそれを意識できたので、尚更受け取りにくかった。

 (えっ!?)

 マヘリアさんの手が俺の片方の腕に触ったと思ったら、手の中にハンカチを強引に押し込んできた。

 「いいから、受け取っておけ」

 俺の耳元で、マヘリアさんが言った。その時俺は、もう一度驚いた。顔を近づけられた時、彼女の髪から良い香りがしたからだ。

 俺はそれで固まってしまった。

 マヘリアさんの足音が、段々と遠くなる。彼女は俺を後ろにして、シュミレーションルームの出口へと向かっていった。

 「あっ・・・あの」

 マヘリアさんの足音が、止まった。俺はマヘリアさんを、呼び止めてしまった。

 (・・・どうしよう、俺)

 自分が緊張して固まって、何も言えないことは分かっていた。でも・・・

 (な 何か言わないと・・・)

 マヘリアさんが、俺の方へ戻ってきた。

 (・・・あっ)

 俺は、何かを言おうとしたが飲み込んだ。

 「何?用があるんなら、早くしてほしいな」

 側まで来たマヘリアさんに、今度は‘ゴクリ’と唾を飲んだ。

 「お、俺・・・い、いえ・・・自分はもっと訓練して、立派なパイロットになります。立派になって、そしていつかマヘリアさんと一緒に飛びたいです・・・」

 声は恥ずかしくて上ずっており、最後のほうは、まともに顔は見れなかった。どうしようもなくなり、また顔を伏せた。

 「・・・ガキがナマ言うんじゃないよ!」

 そう言って、指で俺の頭を軽く小突いた。

 「まっ、考えておいてやるよ」

 出口の方に向かっているのが足音で分かった。俺は、それを目で確認できない・・・。まだ恥ずかしくてマヘリアさんを見ることが出来なかった。

 「あっ そうそう ヨウ・・・」

 今度は、マヘリアさんが足を止めた。

 マヘリアさんが俺のことを呼んだので、思わず俺は顔を上げた。

 「あと一年あんたが早く生まれていたら、あたしはこの最終選抜テストで負けたかもね。一年早くても、あたしの方がフライト時間とパイロット経験は上なのにね・・・。だから頑張んなさい」

 「はいっ!」

 俺は嬉しくて、大な声で返事をした。

 「ハンカチ、ちゃんと洗濯して返してね」

 マヘリアさんはそう言って、‘バイ バイ’といった感じで手を振りシュミレーションルームを後にした。俺は涙が溢れていたので、その姿が霞んでしか見えなかった・・・。

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 その後、俺は結局ハンカチを返せなった。すぐに洗濯して返すつもりが、なかなか時間が出来ず、最終選抜テストから3日後になって返しに行った。

 ところが、行き違いで、少し前にシュラク隊として任務地に赴いたとのことだった・・・。

 (俺は、このハンカチを絶対返す。マヘリアさんに会うまで、絶対に死ぬもんか!)

 胸のポケットに入っているハンカチを、服の上から確認して、俺はみんなを絶対に守ることを改めて思った。

 「よし、軸合わせ確認!ドッキングする!!!」

 計器がオールグリーンなのを確認すると、俺はドッキング・モードのスイッチを入れた。

 ハンガー、コア・ファイター、ブーツの並びが変わった。

 機首が二つに折れ曲がると同時にコア・ファイターからMSの頭部がせり上がってきた。キャノピーの部分が後方へスライドし、コア・ファイターへ収納された。

 ハンガー部分は、腕と腹部に変形して、そのまま変形したコア・ファイターと合体した。

 ブーツは、腿から下の下半身とサイドアーマーに変わり、先に合体したハンガーとコア・ファイターの下から合体した。

 「ドッキング完了」

 計器に以上が無いことが確認できた。初めての空中換装を、実戦でやり遂げた。本当だったら喜んで浮かれたいのだが、そんなことしたら、確実に俺が撃たれてしまう。

 俺は背後を取られている。俺がもし敵なら、ドッキング直後の無防備を狙う。素人パイロットでも、俺の撃墜は必至だろう。

 敵を捉える為、俺は振り向いた。

 「何っ!?」

 敵の撃ったライフルが、俺のMSに命中した。被弾したことでバランスを崩し、機体の高度は段々と下がっていった・・・。

 (ちっ・・・やるじゃないか・・・)

 この戦闘で、初めて敵の素人パイロットを褒めた。無防備を狙うのは、定石中の定石。そこをしっかり当ててきた。

 甘いところを逃がさず狙うことは、パイロットとしての基本だ。俺が教官だったら、今まで外れっぱなしの敵パイロットには、この時ばかりは上々の点数を上げてやりたい。

 しかし、俺は戦場のシビアなところを教えてやった。

 「いくら何でも、ビーム・シールドの発生光は見えただろう。その後の追い撃ちが甘いから、何時まで経っても素人なんだよ!」

 バランスを取り戻すと、再びビーム・シールドを展開させながら、敵MSに対して狙いを定めていた。

 「避けるなよっ。当ぁぁぁたれぇぇぇ!」

 放たれた閃光は、真っ直ぐと敵MSに向かっていき、鈍い音をして敵に命中した。

 「ライフルの威力は、こっちの方が段違いで上だったようだな!」

 敵が構えたビーム・シールドを貫いて、MSの頭部に当たった。

 頭部の形はとどめているものの、黒い煙を上げて、機体はみるみると高度を落としていった。

 大体、どのMSも頭部にカメラなどの、いわゆる「目」の役割を果たす機械が多く集まっている。見た目以上に被害は大きいはずだ。

 俺は高度を下げていく敵MSに対して、またライフルの狙いを定めた。

 「武器が無きゃ、これ以上追撃できまい」

 ライフルを持っている右腕をロックオンすると、3発ほどトリガーを引いた。

 その内の1発が腕(正確には肘の部分)に命中し、MSからライフルをもぎ取った。

 ちなみに2発は牽制で撃った。『当ててください』と言ってる敵を、外すほど俺はマヌケじゃない。選抜に選ばれた腕は、伊達のつもりじゃない。

 腕をやられた敵MSは、(ビームシールドも兼ねている)ビームローターが生きていたので、地面に軟着陸出来たことを俺は確認した。

 「ユー、そっちにもう一機行ったわ!気をつけて!!!」

 一機やっつけたこどで、俺は気が緩んでいた。地上を走るMSトレーラーを攻撃していたMSのことを、俺は完全に忘れていた。

 MSはサーベルを抜いて、俺に向かっていた。

 (ま、まずい・・・やられる)

 瞬時にそれは判断できた。ここで終わるのか、とすら思った・・・。

 (大丈夫よ・・・)

 「えっ!?」

 どこかで聞いたことのある人(女)の声だった。

 その声を聞いた後の数秒間のことは、よく覚えていない。気がついたときは、左手でサーベルを逆手に持って、肩口から左脇の方へ突き刺していた。

 「な、何が・・・ブーツをドッキング・アウトしている・・・?」

 自分でやった(であろう)行動が、まったく理解できていなかった。計器のパネルと目の前の状況で判断できただけだった。

 敵は既に機体を捨てて、脱出していた。機体の胸の部分には大きな穴が開いた。おそらくそこにコクピットがあったのだろう。

 殺さずに済んだことに、何となく俺はホッとしたが、それも束の間だった。

 「ちょっとまてぃ。高度が下がってきてるじゃないか」

 徐々ではあるが、機体は高度を下げている。ブーツが無くなった事もそうだが、敵MSとサーベルで‘つながっている’ことが一番の問題だったようだ。

 「ブーツ無しでパワーダウンしてると、MSの一機も支えられないのか」

 サーベルをしまうと、トップ・ファイター(コア・ファイター+ハンガー)に変形して飛行形態をとった。

 「こちら ヨウ・フタバネ。敵MSを撃退。直ちに帰投します」

 無線の回線を開くと、トレーラーにいる‘代表’とマリンに報告した。

 「ヨウ君、よくやってくれた。しかし敵は追っ手を差し向けてきてるだろう。待ち伏せの可能性だってある。なるべく早く戻ってきてくれ」

 ‘代表’は優しい声で、労をねぎらう様に俺に話してくれた。‘代表’の言葉を聞いて、俺は‘フーッ’っと安堵の溜息を二度三度吐いた。

 「何『お仕事終わりました』みたいな溜息を余裕でついてるのよ!」

 突然大きな声でマリンの声が入ってきた。

 「あんた、まさか忘れた訳じゃないわよね?」

 怒っていた。マリンの声は明らかに怒っていた。俺には身に覚えが無かったが・・・。

 「わ、分かってるよ。そのくらい」

 と、とりあえずその場しのぎで、そう答えた。

 「だったら、もたもたしないで早くブーツを回収してきなさい。それをジブラルタルまで届けるのが任務でしょ。ここで忘れてっいてどうするつもり!それに整備や補充・・・」

 「了解しました。ヨウはこれよりマリン整備士の命により、ブーツの回収に向かいます」

 何か言いたそうなマリンを封じるように、皮肉を込めて俺は言った。

 無線機の向こうではマリンが何か言っているようだったが、考えたいことがあったので、俺は無線機(インカムタイプ)を頭から外していた。

 (あの声・・・マヘリアさんの声に似ていたな・・・)

 ブーツの出すシグナルをキャッチする為、俺は機体の向きを変え、先程戦闘があったところに向かった。

 向かいながら俺は、声の主が誰なのか今一度考えていた。

 何故、聞こえてきたのか? 何故、マヘリアさんなのか?

 (そもそも声なんてしたのか?)

 考えてる内に、答えを見つけ出せなくなってきた。

 「って、今はそれどころじゃないな。マリンがうるせー」

 俺は、無線の向こうで怒っているマリンの顔を思い出した。そして、ブーツを探すことに集中した。


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 途中、敵の追撃や待ち伏せにあいながら、それをこの機体で撃退し、何とか俺たちはジブラルタルについた。

 しかし、ジブラルタルで待っていたのは、悲しい事実だけだった・・・。

 敵の攻撃により、ジブラルタルでの合流に完全に遅れてしまった俺たちは、入れ違いになってしまった。本隊は数日前に宇宙に上がっており、結果、俺たちが運んできたMSは本隊に渡せなかった。

 そして、本隊が宇宙に上がるまでに亡くなってしまった、シュラク隊3名の訃報・・・。

 その中にマヘリアさんが含まれていたこと・・・。









―あとがき―


 ヘタな文章で申し訳ないです。VガンダムのDVDが発売されたのを記念して、浮かんだ構想を書いてみました。

 兎に角、大好きなマヘリアさんを出してくて、強引に選抜試験までデッチ上げました^^;

 大のマヘリアさんファンなので申し訳ないです。

 いつも思うのですが、MSを出す時、ある程度設定を知らないと書けない部分があるような気がするんですよね^^;

 トム・リアットの下半身、あれどうなってるんでしょう?バウと同じ無線誘導なんかな?

 などと、考えながら書いてる始末です。詳しい設定資料とか買おうかな?シュラク隊全員の年齢とか身長比とか知りたいし・・・。(買うベクトルが違わないか?)



 今回、巻末にはキャラの設定を書きます。これで分かりにくかった相関図もバッチリ?










 キャラクター紹介


 ヨウ・フタバネ
 今時珍しい、生粋の日本人。21歳。飛行気乗りからMSパイロットに転向した異色な経緯を持つ。

 航空兵器としての戦闘機の立場は既に無くなっているこの時代に、あくまで戦闘機にこだわっていた、かなりの変色物。

 その腕を買われてMSのパイロットになるも、最初はなれなかったがメキメキと頭角を出して、パイロットとしての経験が他のパイロットよりも少ないにもかかわらず、互角の腕前を持つようになる。

 あだ名の「ユー」は、本来、「YO・FUTABANE」と自己紹介するべきところを「YOU・FUTABANE」と紹介してしまったため、英語の「YOU」と同じになってしまったところから。

 この宇宙世紀においてまだ英語が苦手な、希少なヤツ・・・。


 マリン
 ファーストネームは、まだありません。(笑)
 この隊唯一の10代で、隊のアイドル的存在。

 弱冠19歳で、MSの全てのメンテナンスをこなせる、天才整備士。それだけに性格もかなりきつめ。

 しかしメカに対しては優しく、機体の損傷の多いパイロットはヘボ呼ばわりする。

 女性らしい行動は見せないが、時々みせる「女性ならではの大胆な行動力」は周りの大人たちを驚かせている。


 ‘代表’
 本名不明。みんなからは‘代表’と呼ばれているが、それも仮称にすぎない。

 隊の代表として『ジン・ジャハナム』の名前(本当のジン・ジャハナムを隠す為、この名前を持つ者は複数存在している)を受けているが、それを名乗らず、あえて‘代表’と呼ばせている。

 的確な判断と思い切った行動で、隊のみんなを導く知的な人。当然みんなからの信頼も厚い。


 マヘリア・メリル
 Vガンダムに登場した、シュラク隊のメンバー。

 シュラク隊のメンバー1ナイスバディの持ち主(らしい)

 ウッソに、事故で亡くなった自分の弟を重ねて「親孝行しなよ」と言ったのが最後の言葉。

 ヘレンの敵を討とうと、張り切りすぎて敵の攻撃でコクピットを潰され死亡・・・。

 私自身、再放送で見たとき1日へこみました・・・。











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