天使の輪
9時の方向、上空からビームの閃光が雨のように連邦・リガ・ミリティア連合軍に降り注いだ。MS隊は各機ビームシールドを全開にして、防いでいる光が見えた。
(敵の新兵器なのか・・・?それよりもっ!!!)
ビームの火線の延長、その先には連邦軍の旗艦とリガ・ミリティアの旗艦のある方向だった。
(どれだけの艦が被弾した!? ジャンヌ・ダルクは?リーンホースは?)
その二隻の艦のこと、特にリーンホースのことは、今の自分以上に心配だった。あの艦はリガ・ミリティアの希望の星、「ウッソ・エヴィン」がいる。俺は会ったことはないが、まだ13歳の少年だって話だ。正直な話、俺は子供が戦争するのは反対だ。だがその少年は、戦闘で大人も驚くような結果を残してきている。ランクは俺より格段に上の「S級」だそうだ。
だがそれ以上に、シュラク隊が所属している艦だということ。そして、なによりもこの機体の本当の持ち主になっていたかもしれない女性が乗るべき艦だったかもしれないこと・・・。沈んで欲しくない、沈ませたくない艦だった。
気持ちが振り払えないまま、正面のモニターを見た。上空、まだ目視出来ないが、黒い点がチラチラとしてきた。
(さて、こちらも歓迎のご挨拶と参りますか)
モニターを最大望遠に切り替えても、まだはっきりと機影が見えない。それでも俺は、その黒い点に向けて狙いを定めた。
(V2用のスナイパーユニットを回してもらったんだ。姿がボンヤリでも、センサーが捉えていれば・・・)
スナイパーユニットのスイッチを入れた。左目に精密射撃用のスコープのようなものが降りてきた。モニターに「Sinper」の文字が浮かび、通常の射撃から精密射撃モードに切り替わったことが確認できた。
(ライフルも狙撃モードに切り替えてと)
複数の照準サイトが動いて、黒い点を捉えようとしていた。V2用の部品を無理にVガンダムの左目に取り付けたため、やっぱりハード面での処理が遅れていた。射撃の測量に通常以上の時間が掛かっていた。
(最初で最後の使用の精密射撃ユニット。ハード面の遅さは、メンテじゃどうしようも無いよな。機械、全交換の作業だしな)
俺はニヤリと笑った。そして、何故だかメカニックのマリンの顔が浮かんだ。
(何でこんな時に、あいつの顔が)
そういえばあいつも19歳だっけ?俺は、出撃前の事を思い出してしまった。
「マリン、お前まだ10代だろ。この戦いが終わったら勝ってても負けてても、この艦を降りろ。ガキが戦争なんてするんじゃねぇ」
出撃前で巣をつついたように騒がしいモビルスーツ・デッキで、俺の機体を整備していたマリンを呼び止めた。
「ったく、最近やっと上手くMSに乗れるようになったと思ったら、こんどはあたしにお説教!?偉くなったものね、ユー」
ピリピリした状況なので、気が立ってるのか、話しかけてもらいたくないのか、怒っているようだった。
「そうじゃないって。19歳の女が機械油とムサい男に囲まれてるってのが、おかしいってこと。世界中で戦争してる訳じゃないんだから、平和なところでも非難してればいいんだよ。仮にも女なんだから、化粧や綺麗な服だって着たいだろうに」
じっと話を聞いていると思ったら、体を震わせて、そしてこっちに振り返った。
「そんなのどーでもいいじゃない!それに、’仮‘にもって何よ!?あんまり変な事言うと、こいつで打つわよ!!!それよりも、作戦前でしょ?早くコクピットで待機してたら?」
スパナを手に持った姿が、とても勇ましかった。
「・・・作戦が終わったら、好きなだけそいつで打っていいぜ」
「な、何よ・・・拍子抜けちゃうわね」
俺は、そのままコクピットに向かった。彼女が何かを言っていたような気もしたが、俺はそれは聞けなかった。自分の中で線を引き、それ以上余韻を残したくなかった・・・。
丁度3個のマーカーが黒い点を捉えて、ロック・オンしたことをアラーム音が教えてくれた。。しかしこいつの計算が、思った以上に時間が掛かった。これだけ時間がかかれば、今の戦いでもう一回使えるかどうか・・・。おそらく無理だろう。遠くのものを狙うったって、動いてるモノを狙うのには、更なる計算がかかる。乱戦になれば、使用は不可能だと今ので分かった。
(むこうは、まだレンジ外か・・・。撃てないのに撃つのは卑怯な気もするけど、悪いけど、これ戦争なのよね)
かまわずトリガーを引いた。肩のオーバーハングキャノンと右手のビームライフルの、合計三本のビームが黒い点をめがけて突き進んだ。
ビームの閃光が見えなくなったくらいに、黒い点の一つが爆発した。
(当たった・・・のか?この距離じゃ、望遠かけてもゆらいでるから、よく見えない)
位置を予測されたため、俺は機体を動かして回避運動に入った。一機撃墜したかどうか分からないが、爆発らしき光は見えたので、賢い敵なら一旦戦列を離れるだろうと思った。だが思い込みになるという‘油断’さけたい。戦場でそんなミスは犯したくなかった。
索敵チェックの小さな画面がメインにいくつか映し出せれたが、敵は映っていなかった。
(散開してるのか・・・?どこに消えた)
そう思った矢先、2時の方角からライフルの光線がコクピットの目の前を通り過ぎた。一瞬早く気がついた俺は、素早く機体を後退させた。かする寸前を俺はなんとか紙一重でかわした。
「そこかっ」
ライフルを向けると、雲にぽっかり穴が開いていた。ライフルを撃った影響で雲に出来たらしい。その穴の向こうに、敵の姿はすでに無かった。
(ちっ、どこだっ)
当てずっぽうで当てに行くために、ライフルのモードをショットガンに切り替えた時だった。俺の頭に稲妻が走り、何かを感じた。それとほぼ同じくして、不思議な声が頭の中に聞こえた。
(11時の方向、上空よ)
「わかってますよ。見えてます」
左手のサーベルを抜いて、機体をその方向へ向けた。敵はサーベルを上段に構えて、垂直に俺を切り裂こうとしていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
切りかかる敵に向かって、俺はそのまま突撃していった。サーベルの攻撃を受けるつもりなんて全く無かった。こちらの動きは後手だが、敵の動きは分かっていた。敵の切りかかる腕の下をすり抜ぬけるように、サーベルの刃をくぐらせた。そしてそのまま突進して、胸元に横一文字に刃を当てた。
装甲に当たって融解が始まるまでの数秒間、サーベルの進行が少し止まる。
(・・・!?)
サーベルを通じて、敵の声が聞こえてきた。接触回線が開いたのだと思うが、サーベルを触媒にしてようで、受信状態は悪い。雑音混じりの声だった。
〔ま、まだ死にたくない。俺にはまだやりたいことが・・・〕
「このぉぉぉぉ〜〜〜」
強化サーベルのパワーレベルをマックスに上げて、装甲の融解を一気に進め、そのまま背中まで真っ二つに切り裂いた。
「そんな中途半端な気持ちで、戦争やるんじゃないっ!そんなんだったら出撃するな!出てこなければ、堕ちずに済んだんだよ」
(ハァハァ・・・)
一人しかいないコクピットで、俺は大声でほえた。敵のパイロットには聞こえただろうか・・・?いや、サーベルの接触は終わりかけだったので、パイロットには聞こえていないない。聞こえていても、たぶん最初の方だけだろう・・・。
敵のMSは二方向に分かれて、真っ直ぐ海へ向かって堕ちていった。しばらくすると、ほぼ二つ同時に爆発した。
「ちぃぃぃ、今度は正面か!」
また頭に稲妻が走り、敵の行動が感覚的に見えた。今度は回避することが出来ず、サーベルを横にして受け止めた。
「・・・ぜ。 」
(なっ・・・!?)
また、サーベルを利用しての接触回線から敵のパイロットの声が聞こえてきた。
「何故、マリア主義に従おうとしない」
(こいつ何いってやがる!)
俺は敵の言葉に驚き、どう返答していいか、一瞬だけ言葉を失った。
「頭ごなしに押し付けて、従わなければ武力で教えを広めようとする輩に、‘はい そうです’かと素直に従えるかよっ!」
「バカめ。マリア主義に従えば、世界中に恒久の平和が約束されるものを」
さっき、真っ二つに斬った敵パイロットの最後の台詞にキレ気味だった俺の感情の何かが、その一言で完全にオカしくなった。
「バッカヤロー! お前らが何もしてこなければ、かりそめとは言え平和は続いていたんだよ。最初のマリア主義はそうじゃなかったはずなのに、それをお前のようなエゴを持った一部のヤツが戦争なんか仕掛けるから、死ななくていい人が戦場で何人も死んでくんだよ。分かってんのかぁぁぁ〜〜〜」
右手のビームライフルをハードポイントに預けて、空いたその手で、敵MSの顔面に一発を喰らわした。その衝撃と反動でお互いが、飛ばされて間合いが開いた。先に仕掛けた俺は、そのタイミングを見逃さなかった。
ライフルをまるで早撃ちのように抜き取り、真横に構えた。狙いは付けられなかったが、この至近距離で外す訳なんて考えられなかった。
「堕ちろ〜」
引くトリガーに、迷いは無かった。ライフルはショットガン・モードのままだった。無数のビームがMSの体を貫き、蜂の巣のように開いた穴からは煙が立ち昇り、MSはバランスを崩して海に向かって間っ逆さまに堕ち、崩したバランスを取り戻すことなく海に激突する前に爆発した。
「敵は、こんな三下じゃない」
過去のことが、走馬灯のように思い出してきた。初めてベスパに立ち向かったときのこと、リガ・ミリティアに入った時のこと、一緒に戦ってきた仲間のこと、死んでいった仲間のこと、自分の憧れの彼女(ひと)のこと、そしてその人の死のこと・・・。
そして俺は知らない間に、涙を流していた。ヘルメットのバイザーを上げ、それを拭って上のほうを見上げた。
「本当の敵は、あのリングの中の声の主・・・。いや、そもそもの原因であるガチ党の党首、カガチを堕とせば」
空からゆっくりと降臨してくる多重リング・・・エンジェル・ハイロゥ。
まだはるか上空だというのに、望遠を使わなくてもその姿ははっきりと見えた。
―あとがき―
前回に引き続き相変わらずヘタれな文章です。ファンのみなさん、ごめんなさい。
今回はVガンダムを使って、私の意見をブチまけて見ました。監督が毒を吐きながら作った作品に、さらに毒を入れてしまいました。
だから、酷くて醜い作品になっていると思います。
戦争終結60年のこの年だからこそ、言ってみたいのです。デリケートな問題ではありますが、申し訳ありません。あえて言わせていただきました。
この作品は、色々な意味で戦争をリアルに描いた作品だと私は思います。
戦争で女子供が戦場で戦ってる姿。艦やMSの整備に見られる老人たち。多くのスッポトキャラの死亡シーンの多さなど・・・。
主人公ウッソの母親の死亡シーンの残虐度といい、そのあと母が来ていたパイロットスーツのヘルメット部分を持ってきて「これが母です」(ズシリ・・・)と描かせるシーンは、放送コードギリギリなのではないでしょうか?
ちょっと前に戦争(当時は湾岸戦争がありました)があったから、その辺のところがVガンダム系のコラムに書かれることが多いです。(と思うのは私だけでしょうか?)
そんなリアルに描かれているし、マヘリアさんが美人だから(笑)、私はこの作品が大好きです。
何も、この作品じゃなくても、ガンダム系なら何でも良かったような気もしますが、好きなんですよね。だから、書きやすいんです。
最後に・・・
台詞、たくさんパクりました。併せてごめんなさいm(__)m
私オリジナルの兵器も出してみましたので、今回は巻末に用語の解説を載せておきます。
用語解説
ビームライフルのスナイパーモード、ショットガンモード
ヨウ(作中ではユー)の愛機、Vダッシュ・ガンダムが持つ新型ライフル、「マルチ・シュート・ビーム・ライフル」のビームの発射形態。
上記2つ以外に通常モード、マシンガンモードの合計4つのモードがある。
V2用に向けて開発されていたが、アサルトパーツ、メガ・ビームライフル、バスターパーツなど強力な兵器が装備されたため、完成を目前にして頓挫した兵器。
めぐりめぐって、ヨウのところに回ってきたものを使っている。
V2用のスナイパーユニット
V2の左目に装備されている、精密射撃用の高性能照準器。記憶では、TVの中では一度きりの使用だったような・・・。
オーバーハングキャノン
Vガンダム用の大型ビームキャノン。背中に装備し、両肩からキャノン砲が出ている。MS形態では、強力な兵器に、トップリム+コア・ファイター+オーバーハングキャノンでコア・ブースターになる。
強化ビームサーベル
サーベルのリミッターを解除できるようにして、高レベルまで出力できるように改造したサーベル。中の電池(ジェネレーター? (笑))は同じ容量なので、解除モードの状態は長く維持できない。そのため、一気に切り裂く時かサーベルがパワー負けしている時など、使用状況は限られてくる。
ハードポイント
正直、自分もよく分かってない(爆)が、ようは[外付け武装を装備できる箇所]、マウント・ラッチみたいなようなもの。予想だが、VおよびV2は同じ規格のラッチだと思うので、装備はある程度流用可能だと思うのだが・・・。まぁV2の大出力だからこそ装備できる物がほどんどなので、現実は不可能だろう・・・。
エンジェル・ハイロゥ
ザンスカールが作った、多重リングの巨大建造物。その中身は2万人のサイキッカーが、女王マリアの祈りを伝える超大型サイコミュ兵器。
何故に兵器かと言えば、NTはその祈りで幻覚を見たり、またコロニーにその祈りの思念波を照射したときは、住人を眠らせ赤ん坊のような状態まで後退させた、暖かみのある祈りとは裏腹の悪魔のような代物。
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