心(その2)



 「って冗談じゃないわ」

 急いで『Close』の札を掛けると、店を閉め急いでプルツーを追いかけた。

 (一体何がどうしたのよ?)

 プルは、全然状況が掴めなかった。いや、この場に誰がいても、同じであろう。

 「んもぅ〜」

 プルは完全にプルツーを見失った。と言うより、追いつけなかった。

 プルは、プルツーがあのような行動をとった原因の一つに、自分が関係していると確信している。だから、自分に腹が立ってしょうがないのだ。

 「プルツー・・。本当にどうしたの?」

 少しぼやき気味で独り言を言った。

 「そうだ、とりあえず・・・」

 プルはそう言って、携帯電話を鳴らした。

 ‘プルル プルル・・・’

 何度かコールするも、やっぱり繋がらなかった。

 「やっぱりね・・・。繋がらないと思った・・・」

 予想通りの展開なのだが、プルは少し落胆した。

 何の手がかりもないので、プルは本当に困った。制服のまま飛び出したので、手がかりといえば、それくらいだった。

 (あまり、遠くには行っていないと思うから、時間と方角が合えば・・・)

 深く考えれば、考えた分だけ、プルツーとの距離が離れてしまう。プルは思い切って、駅とは反対の地区に向かって走り出した。

 (こっちに居てよ、プルツー・・・)

 そう祈りながら、プルは全力で走った。




 「ふー・・・。やっと帰ってきた。意外と近くて遠いな・・・」

 溜息と、愚痴を一つこぼしてグレミーは自分の店のある街に帰ってきた。

 (大丈夫かな、あの二人・・・)

 グレミーは店の出際に自分で言ったことが気になって(もちろん、二人の事もだが)、講義を途中で抜けて帰ってきてしまったのだ。

 (兎に角、一度店に電話だな)

 グレミーは携帯電話を取り出して、ニュータイプに電話をした。

 ‘プルル プルル・・・’

 (あれ?出ない・・・)

 『店に誰もいない』ということは、よほどの事が無いかぎりありえない。

 グレミーはもう一度電話をしたが、やはり出なかった。

 (絶対 おかしい!何かあったな あの二人!)

 ちょっと慌て気味になりながら、また電話をした。

 (少なくとも、プルより安心できるからな)
 
 今度は、プルツーの方にかけた。

 ‘プルル プルル・・・’

 (・・・出ない。おいおい どうしたんだプルツー?)

 焦りの顔が苦笑いに変わる。急に額から汗が‘ジワァー’っとにじみ出て来て、事態の状況を一気に把握させた。

 (原因はプルか?)

 今度はプルにかけた。

 (お前は出てくれよー。プル〜)

 ‘プルル プルル・・・’

 グレミーにとってそれは、妙に長い時間だった。焦りが時間の感覚をマヒさせていたのだった。

 ‘ピッ’

 電話を取る音が聞こえた。

 「グレミー!? もし・・・」

 しかし、グレミーは最後まで言わせてくれなかった。

 「何故、早く出ない、プル!一体プルツーと何があったんだ!」

 いつもよりも大きな声で、グレミーは怒った。周りからの視線を、一人で集めたが、そんなことは全然気にしていなかった。

 「もしもし、グレミー・・・。そんな大きな声を出さなくても聞こえるよ」

 ちょっと弱気で、はずかしながら応答した。なぜなら電話の声が、しっかりと洩れるくらいの大声だったからだ。

 プルが電話に出たタイミングは、決して遅くは無い。相手がグレミーとわかったのでむしろ早く出たほうである。

 「そんなことはどうでもいい。一体何があったんだ?二人とも店にいないし・・・。」

 今度は人目を気にしてか、普通の声で話したがそれでも若干 人目を集めていた。

 先ほどの大声の影響なのは言うまでも無い。

 「プルツーが・・・プルツーがいなくなったんだよ〜」

 涙声でプルは言った。いや、すでに半ベソ状態だった。その小さな瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 「わかったよ、プル。話は後から聞くとして、今はプルツーを捜そう」

 事態は何も理解していないが、プルツーがいなくなってプルが泣いているのはわかった。
グレミーにとって、それだけわかれば十分である。

 「あ、ありがとう、グレミー」

 嗚咽で、声がかすれ一生懸命に出しているが言葉にならない・・・。それでもやっと出した声だった。

 「ほら、もう泣かないのプル。プルはそんな直ぐに泣く娘じゃないでしょ?」

 グレミーは優しい声で、そういった。

 それに答えるように、プルも

 「うん。あたし強いもんね」

 と返してきた。まだ涙声だったが、先程の比べて笑い声も混じっていた。グレミーの電話の向こうから、涙をぬぐう音がした。

 「そうそう、その意気、その意気だよ、プル。で、プルは今どこなの?私は帰ってきたばかりだから、駅の近くだけど・・・。プルも近いのか?」

 グレミーは急に本題に入った。プルは泣き止んではいたが、声から涙が抜けきっていないようである。

 「ううん。あたしは今、駅と反対のところにいる。そっちの方は、グレミーが帰ってきてからでも遅くないと思って・・・。ゴメンね、グレミー」

 先程復活したと思ったら、また声に涙か混じってきた。グレミーからすれば、もう泣く一歩手前のように聞こえてきた。

 「わ、わ、プル、プル」

 せっかく落ち着いたのに、また泣き出しそうになったので、グレミーは少し慌てた。

 「もうわかったから、プル。私は駅の周りを捜すよ。プルはそのまま反対側の地区を頼む」

 どもりながらも、ようやく答えた。またグレミーの携帯の向こうから、涙をぬぐう音がした。

 「うん。ありがとうグレミー」

 声の感じからして、電話の向こうではもう笑顔のようだ。

 (プルは、本当に気持ちの切り替えが早いな・・・)

 本来ならばこのように、プルの気持ちの切り替えに、一喜一憂したいところだが、状況が状況だけにそのような考えはすぐにどこかへ行ってしまった。

 「ねぇ、グレミー」

 プルの声に明るさと元気が戻ってきた。しかし、まだ涙で声がかすれていた。

 「なんだい、プル?」

 「あのね、そのグレミーの優しさを、プルツーにも分けてあげて・・・」

 「???」

 完全にグレミーは、?顔だった。

 「あたしだけ、その優しさをもらう訳にはいかないわ・・・」

 「そんなことはないよ。プルだって十分優しい・・・」

 そこまで言ったら、プルが激しく返してきた。

 「そんなことはないよ、グレミー。プルツーが飛び出した原因ってあたしにあると思うの・・・。だって、だって・・・」

 電話をかけながら、プルは‘ブンブン’と首を横に振った。

 また泣きそうになる。グレミーは、また慌てて止めた。

 「だからね、あたしじゃダメだと思う・・・。グレミーじゃなきゃダメだと思うの。だから、あたしが先にプルツーを見つけても、グレミーに説得してもらいたいの」

 グレミーはそこまで聞くと、‘わかった’と答えて

 「じゃぁ、プル・・・。もしプルが先にプルツーを見つけたときは、私が行くまで、よろしく頼むよ・・・。」

 「ありがとう、グレミー」

 その答えを聞いて、プルは涙がこぼれていた。

 「わ、わ、プル?!」

 電話の向こうからでも泣いているのがわかったのか、グレミーは思いっきり動揺していた。先程からの行動から見て、グレミーはどうも女性の涙には弱いようである。ある意味、損な人間かもしれない。でも、そこがグレミーの魅力なのである。

 「ううん、ちがうの・・・。感激の涙」

 涙をぬぐってプルは笑顔で答えたつもりだが、上手く言葉になっていない・・・。グレミーもまだ動揺していた・・・。

 「じゃあ、何かあったら連絡するから、一度切るね」

 「ああ」

 そう言うと、プルとグレミーは電話を切った。





 (冷静なプルツーが一体・・・?)

 そう考えたが、その考えはプルツーのことを心配する気持ちに取って代わっていた。

 全力で走るグレミーに冷たい秋風が当たったが、そんなことは全く気にしていなかった。









―あとがき―


 話が長くなりそうなので、また切らせて頂きました。
 はぅ、気がつけば3部作ですか・・・。前回は、「2部構成だ」見たいな事を書いたのに・・・。
とにかく、キャラクターがよく動いてくれます。書きやすいキャラクターなのか、それとも書きやすいエピソードが彼等なのか・・・?
 こりゃ、「ホテル アクシズ」じゃなくて「喫茶 ニュータイプ」に名前を変えないとマズイか?
社長だって、まだ一回しか登場してないし・・・。会長のミネバ様なんて0回・・・。
 まずいなぁ・・・登場するエピソードが思いつかないよ・・・。ゴメンねミネバ様。(笑)

 次回の第3部を書けば、とりあえず終了です。(ってかすいません。ネタ切れです、笑)後はクリスマスのネタが一つと・・・。


 ふぅ〜・・・。さて、第3部 書きましょか〜(って現時刻は2002/10/12/2:22もちろん夜中。たぶん続きは明朝以降、笑)





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