聖夜(第1幕)



 今日はクリスマス・・・。ここも、世間一般のクリスマスと同様、『恋人たち』にとっては特別な夜の日・・・。

 (こっちへ来るとき、降ってたのに帰るときは降ってない・・・ラッキー♪)

 アルバイトを終えて、青年は「ホテル アクシズ」を後にした。

 (今日、クリスマスなのにいいのかな?)

 その青年が、思うのも無理はない。ホテル業ならいろいろな意味で今日は、『忙しい日』なのだ。だが青年は、時間通りに仕事が終わった。

 (いくらローテーションといっても、今日は『従業員総動員』してもいい日じゃないかな?)

 青年はそう考えながら、雪の積もった道を帰った。

 この地方では、近年まれに見る積雪だったようである。そのおかげ(?)で、テレビのニュースでは転んだ人を撮影した「街角ウォッチング」系の内容のものまで、放送していた。

 (そういえば、昨日テレビでやってたっけ?何のニュース番組だったかな?よくカメラがあったよな。人が転びそうなところに・・・。あれって笑っちゃいけないんだよな・・・)

 『笑っちゃいけないんだよな』と思ってはいるが、その思いとはうらはらに、顔は少し‘ククッ’っとにやけていた。思い出し笑である。

 (しかし、平和になったよなぁ。ちょっと前なら、あんな「ほのぼの日常」を撮影したニュースなんて流さなかっ・・・。)

 ‘ドカッ’

 「あうっ」

 青年は、思わず声を上げてしまった。考え事をしながら歩いていたら、自分の背中に急に何かがぶつかって来たのである。

 そのぶつかった『モノ』は青年の右手側に回ると、‘スルり’と腕を絡ませてきた。それは青年が振り向くスピードよりも、早かった。

 ぶつかってきた『モノ』は、振り向いた青年の顔を一瞬だけ見ると、目を伏せ下を向き少しうつむきかげんで言った。

 「ひどいわ。私をほっといて、一人で帰るなんて・・・」

 冷たく暗い、低い声だった・・・。

 「わっ、わっ、な、何? 何?」

 青年は突然の出来事に、驚き慌てている。

 「やっぱり・・・。あなたは、いつもそうやって誤魔化すのね」

 その女性の声は、泣きたいのを我慢しているような、悲しい声だった。

 青年はその声を聞いて、少したじろいだ。しかし、さっきの「驚き」や「慌て」ではない。「凄さ」にたじろいだのである。

 「どうして、そんな声をすぐに出せるのかな?そして、どこでそんなセリフを覚えてきたのかな、ブルちゃん?」

 プルは一瞬‘ピクッ’とすると、目線を上げた。その顔は、今にもフキダシそうな笑いをこらえて、頬をふくらませていた。

 「あはははぁ。ごめんなさい、バーニィさん。バーニィさんがあんなに驚くなんて思わなかったから・・・」

 結局耐え切れず、笑ってしまった。今のこのセリフも、笑いながら言ったため、途中途中で切れている。

 「そ、そりゃ驚くさ。いきなり身に覚えのないことだったから・・・。そ、それに、え、演技が上手だったし・・・」

 ‘バーニィ’と呼ばれた青年は、プルと話してはいるが、目線はどこか遠いところを見ているような感じだった。その証拠に、あまり顔を見ようとはしない・・・。

 そして、とうとう顔まで逸らしてしまった。顔を真っ赤にして。

 「あ、あのプルちゃん・・・。腕・・・、もう離してもいいんじゃない?」

 バーニィは、鼻の頭を‘ポリポリ’掻きながら言った。

 「えっ?あっ、ごめんなさーい」

 ‘サッ’とバーニィの腕を放して、その場から一歩引いた。顔は全く悪気が無いのか、満面の笑みである。

 バーニィのほうは、プルが放れたにもかかわらず、まだ顔をそむけて鼻の頭を掻いている。当然、顔はまだ真っ赤だった。

 絡まれていた腕も、‘カチッ’と固まって動かない。妙に力が入らなかったのだ。しかし、手は動いた。何度も‘グー パー’と、開いたり閉じたりしていた。

 (うっ・・・。汗ばんでる・・・。年下の女の子に、何を焦っているんだ?)

 少し落ち着きを取り戻して、顔の色も正常になってきた所なのだが・・・。また逆戻りである。いや、『苦笑い』とも『照れ笑い』ともいえる表情が一つ増えていた。

 「おーいぃぃぃ。バーーーニィーーーくーーーん」

 遠くの方から、バーニィを呼ぶ声がした。バーニィは鼻を掻くのを止め、声の方を見た。プルも同じく、声の方向を見た。しかし、先ほどの笑顔ではなく、‘しまった’といった顔で向けた。

 声の主は、白い息を出しながらこちらに走ってくる。その後ろには、プルと同じくらいの背丈をした少女が、『声の主』に追いつこうと一生懸命走っていた。

 「コラ、プル!勝手に一人で走って消えるな。心配するだろ!」

 「ごめんなさーい、グレミー」

 プルは先程と同じく笑顔で誤った。今度は、‘ペロッ’と舌をだして。

 グレミーは‘ハァ’と溜息をつくと、それ以上何も言わなかった。プルのその行為自体に悪気は無いのは、グレミー自身も分かっていたからだ。もしプルの行為が悪意ならば、グレミーの心に(もちろんこの場合は、バーニィの心にも)『不快な感じ』を残すであろう。

 「まさか・・・、『バーニィさんが見えたから、走って行った・・・』ってことはないだろうな?プル」

 グレミーに続いて、少し遅れてきた少女は息を切らせながら、プルに言った。

 「ピンポーン!正解〜。あったま良い〜ね〜、プルツーは」

 「本当に、この娘は・・・」

 プルツーは目に手をやるとそのままうつむき、首を左右に振って嘆いた・・・。しかし、そんなプルツーを見ても、プルは相変わらず笑顔だった。

 「ところでバーニィ君、プルに何かされなかったかい?」

 ようやく息が落ち着いたグレミーが、バーニィに話しかけた。

 バーニィは慌ててグレミーの方を向いた。その時、何故か両手は後ろに組んで振り向いた。バーニィは、それを意識的にやった訳ではない。バーニィの心の『照れ』や『恥ずかしい』
といった感情が、そうさせてしまったようである。

 「あっ、えーっと 何にもされてないですよ。大丈夫です。ねっ プルちゃん」

 ちょっと顔を赤くしながら、グレミーにではなくプルに言った。さりげなく‘ウインク’をして・・・。

 突然の質問に対し、バーニィの答えは瞬時に答えをまとめる。いたって冷静な答えだった。ただ、読み取られてないようにするのは出来なかったようである。

 「えっ!? ウン、あたし何もしてないよ」

 バーニィの顔を見たプルが、代わってグレミーに答えた。

 (ふーん・・・まっいいかぁ)

 二人のやりとりをみて、グレミーはそう思った。


 「ちょっと・・・グレミー」

 プルツーが背伸びをして、バーニィとプルに聞こえないように、グレミーの耳元に手を当て小さな声で話した。

 さらにプルツーは二人に『背中を向ける』仕草をしたので、グレミーもプルツーに合わせて背中を見せた。

 (チャーンス!)

 二人の仕草をみたプルが、一瞬目を光らせて、そう思った。

 ‘グイ’

 プルに袖が引っ張られたので、バーニィはそちらの方を向いた。

 プルは、口に手を当てているので、『耳を貸してほしい』というポーズだった。

 バーニィは、プルの背丈まで腰を落とした。

 「ありがとう、バーニィさん」


 「ん? あぁ気にすることはないよ。悪気が無いのに何か言われるのは、気分が良くないからね」

 バーニィはプルの顔を見て、小さな声をで答えた。

 「プルちゃんって、誰にでもあんなことをするのかい?」

 「ううん。グレミーとジュドーお兄ちゃん、あとバーニィさんだけだよ」

 「さ、三人だけ・・・どういう基準なの?」

 バーニィは苦笑いをしながら、プルに聞き返した。プラス、額から汗をかきながら。(笑)

 「うーんとね・・・優しい人!」

 苦笑いのバーニィとはうって変わって、プルの顔は満面の笑みである。

 (そ、そんな基準なのか・・・)

 その言葉を聞いて、‘ズルッ’としてしまったバーニィは、まだ苦笑いだった。(もちろん、額の汗も、笑)

 「あ、ありがとう、プルちゃん」

 苦笑いのまま言ったせいか、声がどもってしまった。

 「うん、じゃあ あたし そろそろ行くね」

 「あ、うん じゃあ また明日」

 プルはバーニィに‘バイバイ’と手を振りながら、二人のところへ走っていった。バーニィも二人のところまで駆けて行くプルに、手を振って笑顔で答えた。

 (はぁ・・・僕って一体・・・)

 今までのことに対し、『恥ずかしさ』と『虚しさ』をバーニィは感じた。笑顔で手は振っているものの、それは少し苦笑いが入っていた。

 プルがグレミー達の元に行く前に、二人は既に向き直っていた。プルが着くやいなや、グレミーは、プルの額を‘チョン’と小突いた。

 プルは、‘エヘヘ’という笑顔で答えた。それを見ていたプルツーは笑顔ではあったが、‘クククッ’と声に出さず笑っていた。

 「バーニィ君、迷惑をかけたね」

 真剣な目でグレミーは、バーニィを見た。

 「いえ、何ともないですよ」

 バーニィは、笑顔で答えた。

 「・・・ありがとう。明日 店に来たら、何かおごらせてくれないか?」

 今度はグレミーが、笑顔で言った。

 「え!?」

 「私からの『お礼』というか『気持ち』です。是非来てください」

 グレミーはそれを伝えると、バーニィの返事を聞かず、プルとプルツーの肩を叩いた。

 「さっ、帰ろうか」

 肩を叩かれた二人は、それぞれバーニィに挨拶をした。バーニィはそれに笑顔で答えた。

 「じゃぁ、明日 店で」

 最後にグレミーがそうい言うと、三人ともバーニィに背を向けて帰路についた。

 (グレミーさんの美味しいコーヒーを飲めるのは嬉しいけど・・・何か複雑)

 バーニィも三人に背中を向けて、帰り始めた時、そう思った。

 苦笑いの表情が、『複雑』さを物語っている。

 (ま、いいか。さぁ〜て 明日もがんばりますか!)

 このような出来事があると、普通は一日の疲れが‘ドッ’と出てきてもいいはずなのだが、バーニィは持ち前の明るさで振り切った。

 両手組み、‘グ〜’っと頭の上に出して、一度背伸びをすると、白い息を吐きながら雪の積もった道を、また歩き始めた。










―あとがき―


 クリスマス用にアップしたのですが、間に合いましたでしょうか?(笑)
 まだ、11月の半ばなので、今から書かないと間に合わないと思ったので、一生懸命書いております。m(__)m
 そして今回も、この話は『前振り』です。前回同様、2話以上の構成になっております。この話以降が、クリスマスに間に合うのか、思いっきり心配です。(間に合ってなかったら、申し訳ございません)
 一応、原作があるのですが、この前振りは私のオリジナルです。
 原作は、おそらく何かの映画(多分、ハリウッド)だと思いますが、タイトル等は全然わかりません。
 皆様は、『おそらく何かの映画(多分、ハリウッド)だと思います』と書いたかと不思議に思われるかも知れませんが、私が見た『原作』は、ある有名作家のアニメなのです。
 そのアニメも、有名な映画を‘パクッて’パロディにしていることが多々ありました。(もともとギャグアニメなので、どうしてもパロディにしている訳です)
 ですから、今回の作品が『パクりのパクり』なのです。(爆)しかも、そのアニメの記憶もだんだん曖昧になってきました。(大汗)特に、結末の方はもう・・・(核爆)
 と、兎に角、気合と根性で書き上げてみますので、(いや、クリスマス用なので書き上げないといけない、笑)応援して下さい。




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