出会い
城を出たちせ達は、アリアハンの街へ向かっていた。
そこから街道を経て、街の外へ出られる。その街道沿いには、商店も多く宿屋もある。アリアハンは比較的何でもそろう街だ。
しかし、これから旅を続けていく以上、そうとも限らない。これから先、いやこの度自体順風満帆な旅とは言えないのである・・・。
「ちょっと・・・」
街の入り口に差しかかった時だった。一行の後ろから声がした。マントのフードを深くかぶっているため、旅の者とも浮浪者とも思える身なりだったが、声の感じは若い女性のように思えた。
「勇者殿に何のようかな?」
テツはそう言うと、腰の剣に手を当てた。ナカムラもはぼ同時に身構えた。
「あっ、待って下さい。その声・・・どこかで聞いたことがあるような・・・?」
「えっ!?」
その声に、二人は同時にちせの方を見た。
だがその一瞬を、マント女(仮)は見逃さなかった。
素早く動き、一気に間合いを詰めた。
「な・・・に!?」(テツ)
「えっ!?」(ナカムラ)
テツやナカムラが驚いたのも無理はない。二人は、一流の騎士だ。その二人が、再び構えるよりも早く、マント女(仮)は一気に二人の騎士の間を抜けた!
マント女(仮)は、そのままの勢いでちせに飛びついた。
奇跡的(!)に、二人とも倒れなかった。その飛びついてきたマント女(仮)を、ちせは何故かしっかりと抱きしめていた。
「親友を置いてくなんてヒドイぞ」
そう言うと、マント女(仮)は、深くかぶっていたフードを取って素顔をみせた。
「やっぱり、アケミ・・・」
顔を確認した後、二人はまた抱き合った。
「だ、大丈夫でありますか!?勇者殿」
一瞬のスキを突かれたとはいえ、身構えるよりも早く横をすり抜けられたのだから、短い距離にもかかわらず、ナカムラは思わず駆け寄ってしまった。
「マジでアケミかよ!」
ナカムラとは反対で、テツはいたって冷静だった。
「テツ先輩、声を聞いて分かんないなんてヒドイですぅ〜」
アケミは頬を‘プーッ’を膨らませた。
「オレだって、本当にお前だなんて考えもしねーべ」
あきれた顔で、‘やれやれ’といった感じだった。
「あの、隊長・・・お二人はどういうご関係ですか?」
手を上げて、ナカムラは質問した。
「うん。あたしもそれを聞きたい」
ちせは、テツとアケミの顔を交互に見ながら言った。
「ん?あぁ、昔オレが武闘家を目指していたころ、同じ道場にいた後輩だよ。あの時は、まだあどけなかったけどな〜。どこでどう間違えたのか・・・。」
胸のところで腕を組み、‘ウンウン’と首を振りながら、昔を思い出していた。
「相変わらず、あたしには毒舌ですね」
‘ツン’とした態度だったが、顔が笑っていた。
「プッ・・・アハハ」
「アハハハハ」
二人の様子を見てちせが笑い始めると、他の三人も笑い出した。
「ところでアケミ、何で・・・?」
「へっ・・・?何でって、ちせを助けるためじゃない」
笑いながら、軽く答えた。
「お前、それマジか!?」
質問したちせ以外、全員笑っていたのだが、テツだけが止め真剣な目つきで言った。
「アケミ、何言ってるの?」
「何って・・・言った通りよ。あんたの‘打倒バラモス’を助けるために来たんじゃない」
心配そうなちせをよそに、アケミの態度は‘カラッ’としていた。
「ちせ、あたしとの付き合い、長いから、この意味わかるわよね?」
‘じーっ’とちせの目を見た。
「勇者殿、私もアケミの性格は知っているつもりです。アケミはこんな時に冗談は言いません」
真っ直ぐ ちせを見て言った。
「こうなるとダメって言っても。付いてきますよ、勇者殿」
満面の笑みを見せて言った。ずっと仏頂面だったテツが、そういう風に表情を崩したのを、ちせは初めて見た。
「この決断は、勇者殿が下してください。我々ではどうしようもできません」
テツの言葉に、ナカムラは無言で首を振った。
「アケミ・・・すごく危険だよ」
「わかってる。危険なのは、みんな一緒。でもあたしがいて、ちせが背負う分を少しでも軽く出来たら・・・いじゃない」
まるで猫か犬をあやす様に、ちせの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「それに、いつもそんな心配そーな顔してると、先が思いやられるわ。しかも、女同士の相談もあるだろうし・・・ね♪」
ウインクを決め、ちせの両手を握った。
「だからお願い・・・」
アケミは、ちせの目をジッと見つめた。ちせもアケミが訴えているのがわかった。
「うぅぅ〜 アケミィィィ」
アケミに握られていた両手を振り払って、そのままバッと抱きついた。
「アケミいいの?あたしのためなんかに・・・」
嬉しさと感動でちせの目から、熱いものがこぼれた。
「うわっ!ちょっとちせ、やめなさいよ。公道の真ん中で・・・。は、はずかしいよ」
照れクサそうに顔を赤く染めて、ちせの抱き付きから少しだけ離れてた。
「いいも悪いも、あたしたち友達でしょや?ちせだけ苦しい思いさせるなんて、出来ないよ」
子供を抱く母親のように、自分の胸にちせの顔を押し付け優しく撫でた。
「うっ・・・うっ・・・アケミィィィ〜」
自分で何とかこらえて、泣くのを我慢していたちせだが、とうとうこらえ切れなくなった。
「バカ・・・ちせ・・・こっちまで泣いちゃうでしょや」
アケミの目にも、熱いものが溢れていた。
「先輩、二人の友情、こっちまでジーンと来ちゃいますね」
ちせとアケミのやりとりを見て、ナカムラがテツに話しかけた。
テツに話しかける前から‘ジーン’と来ていてようで、鼻を何度もすすっていた。
「アホ。ナカムラ、こんなことで感動するな」
ナカムラの顔を見ずに言った。正確に言うと、見れなかった。
しかし、そんな『我慢』は無駄だった。
テツ自身、冷静に言ったつもりだが、声は完全に裏返っていた。
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